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雑文置き場

『声百合アンソロジー まだ火のつかぬ言葉のように』に寄稿しました

ストレンジ・フィクションズの〈百合アンソロジー〉第二弾、

『声百合アンソロジー まだ火のつかぬ言葉のように』に寄稿しました。

「声」をテーマにした百合小説を載せたアンソロジーです。

拙作の良し悪しはよくわからんですが、他の収録作は非常に面白かったので感想を残しておこうと思います。興味を持った方がおられましたら、お買い上げのほどよろしくお願いします。

 

booth.pm

……とにもかくにも、文尾文先生の表紙絵が素晴らしい。

 

紙月真魚「貝と耳鳴り」 

「私をずっと想って生きて」。疎遠になっていたかつての恋人・児玉鳴が自殺した。彼女の葬式に参加した私は、遠い親戚だという老女から話しかけられる。そこで語られる、児玉鳴が持っていたという奇妙な能力〈ほらふき〉とは、果たして……。

エッチな小説を読ませてもらいま賞大賞の紙月真魚さん(ワライフクロウ)の作品です。

〈ほらふき〉という奇妙な能力を持った女性から、執着される女の話です。〈ほらふき〉とは〈洞吹き〉と書いて、つまり洞穴に声を吹き込んで記録できる能力です。例えば、巻貝に声を吹き込んだら、耳に巻貝を当てたら何年たっても昔に吹き込んだ声が聞こえるということになります。

この特殊能力の使い方が抜群にうまい作品です。「この能力を使ってこんなことをするのか」という驚きと、「こんな能力があればこうなるよね」という納得感が、同時に達成されています。しかも、ちゃんとエロい百合としても成立してます。

 

 

笹幡みなみ「今日の声は聞いてないから」

「このスペースではトランスクリプション(文字起こし)が有効です」。怪異専門ウェブメディアあやじんの公開編集会議スペースでは、桐谷きょうが〈女の声の怪異〉について取材を行っていた。身の毛もよだつ恐怖が待っているとも知らず……。

『Rikka Zine vol.1』や「文芸同人ねじれ双角錐群」に参加されてる笹幡みなみさん(笹帽子)の作品です。

文字起こし機能を使ったweb音声会議の議事録という体裁をとった小説になります。〈自動文字起こし〉という発展途上の技術をいち早く小説の中に取り込むバイタリティにまず感心させられるわけですが、しっかりとその状況でないと成立しない物語を作り上げているのも流石の一言です。

形式上、会話文の応酬で話が転がっていくわけですが、そのやり取りも生き生きしていて、純粋に読んでいて楽しい小説ですね。

 

 

 孔田多紀「ポストカード」

「こんなことアリスにしか頼めないから」。公募新人賞にBL小説を応募することを考えていたサクラは、事故で腕を骨折してしまった。事故の原因をつくったアリスに対して、彼女は執筆を手伝うように迫るのだったが……。

メフィスト評論賞円堂賞の孔田多紀さんの作品です。

BL小説を書くことが趣味の友人・サクラを骨折させてしまい、口述筆記での執筆を手伝うことになった女子高生・アリスの話です。二人は協力してBL小説を書き進めるわけですが、そこで行われる何気ない会話によって、二人の関係性をくっきりと浮かび上がらせていく構成がうまいです。

また、主人公を取り巻く家族や学生仲間についてもしっかり描写されているのですが、そこもしっかり作りこまれていて群像劇のような魅力もあります。なにか奥行きの深い作品だと感じました。

 

 

茎ひとみ「壊死した時間」 

拙作ですね。多分百合。きっと百合。読んだら感想書いてくれ。

内田百閒『柳検校の小閑』を参考にして、盲者の一人称の語りをテーマに取り組んでみました。うまくいってるかどうかは……。

 

 

織戸久貴「ミメーシスの花嫁たち」

「やっぱり死人よりも死んでいるみたい」。あの太平洋戦争のさなか、心中した二人の少女。そして現代、彼女たちの名前を拝借して作成されたアニメ『こえのきず』とラジオノベル『こえのきずあと』。彼女たちの声が響きあう先には……。

第9回創元SF短編賞大森望賞の織戸久貴さんの作品です。

太平洋戦争のさなか、ラジオで愛国詩を朗読する少女たちの心中。彼女たちに触発され、現代において作成されたアニメとラジオドラマ、朗読AI。様々な少女たちの声(ヴォイス)がコラージュ的に配置され、それらが共鳴しあいことで物語が浮かび上がってくる結構が見事です。

収録作の中では、最も〈言葉のひびき〉に向き合っている作品かもしれませんね。よきかな。

 

 

千葉集「声豚」

「小出さんは、豚じゃなかったとおもいますけど」。切毛は、ある日突然、雌豚を連れて登校してきた。彼女は、その豚のことを〈小出さん〉と呼んだ。一方、人間の小出さんは豚を育てている。カルト宗教にはまっている母親から譲り受けた豚を……。

第10回創元SF短編賞宮内悠介賞の千葉集さんの作品です。

女と女の間に豚が挟まっている百合です。それなら豚百合じゃねぇか、というお怒りの声があろうとは思いますがご安心ください。ちゃんと声百合です。豚は、霊長類の次に人間に近い哺乳類であり、遺伝子編集技術を使えば、人間のあらゆる臓器や器官を補う代用品になり得るわけです。しかし、唯一、豚では人間の代わりにならないものが存在します。それが〈声〉なんですね。

豚というものを介することによって、豚では再現できない〈声〉が前面に出てくるというひねくれ方が面白い一品です。このオフビートなノリは完全に作者の味ですね。

 

まったく関係ないですが、豚百合の傑作マンガを貼っておきます。

www.comic-medu.com

 

 

谷林守「溶けて、燃える」

「知り合いがいない場所がほしいの?」。夜の繁華街で連日何かを探して張り込みを続ける先輩と後輩。雨に濡れた地面。赤いネオン。黒い傘。

第10回創元SF短編賞日下三蔵賞の谷林守さんのショートストーリーです。

雨が降り注ぐ夜の街で、雨の音がうるさくて隣にいる彼女の声しか聞こえない、そんなシチュエーションだけで高まっていきます。

一番短くて一番エモい作品です。ずるいですね。

 

 

 

 

「発刊してから一か月経ってるんですけど、何やってたんですか? どうしていまさら感想を?」

「えっと、すぐ書くつもりだったんですけど、寝てたら一か月経ってました……」

「はあ?」

「……」

――ストレンジ・フィクションズの〈百合アンソロジー〉第三弾へ続く