今は亡しわが村

雑文置き場

2026年上半期に読んで面白かったマンガ20選(新刊を除く!)

新刊マンガの話ばかりしているのも芸がない。

たまには古いマンガの話はいかが?

 

 

 

今はなきマッグガーデンの部

今年の3月5日発売の4月号をもって「月刊コミックガーデン(マッグガーデン)」が休刊したことは記憶に新しいですが(WEBマンガとして残るにしても撤退戦の色を感じてしまいます)、マッグガーデン系のコミックスをいくつか読み返していました。

マッグガーデンは、いわゆる「エニックスお家騒動」によって誕生した出版社であり、ガンガン系の雑誌が少年マンガへの回帰を模索するなかで、その流れに反発した編集者たちが担当の作家たちを伴って離脱して設立したという経緯があります。

というわけで、少年マンガに同化することを拒んだ女性作家が多いのですが、かといってそれまでの少女マンガとも違う文脈の中にある本当の意味で特異なマンガ作品が、マッグガーデンでは多く発表されました。

 

たなかのか『タビと道づれ』

外部から隔絶され、同じ1日を繰り返し続ける街に迷い込んでしまった少女・タビを描くファンタジードラマ。いわゆる「ループもの」の設定を持っていますが、設定のギミックに淫するのではなく、ループする街のなかで“ループしない人間たち”が織りなすドラマが丁寧に描かれます。

このループしない人間たちは、それぞれ何らかの「願い事」を秘めた存在であり、主人公のタビがその願いと街の秘密に迫っていく構成となっています。コメディ要素もふんだんに盛り込まれつつ、その根底にはどうしようもない暗い青春の感情が流れており、独特の味わい深さを醸し出しています。

たなかのかは、マッグガーデン生え抜きの作家で、自作をして「カサブタみたいな漫画」と表現しています。まさに、少女マンガのようなリリカルさと、少年マンガのようなコミカルさを持ち合わせた、マッグガーデンというレーベルの精神を象徴するような作家と言えるでしょう。

 

 

 

 

歴史マンガの部

歴史マンガには二種類あると思っています。

「マンガ家が歴史を描いたもの」と、「歴史マニアがマンガを描いたもの」です。

最近の作品で言えば、前者が『逃げ上手の若君』で、後者が『天幕のジャードゥーガル』でしょうか。

そして、今回ご紹介する二作はいずれも後者に属する作品になります。

 

もりもと 崇『難波鉦異本』

大阪の遊郭でしたたかに生きる遊女・和泉と、その禿(かむろ)・ささらの日常を鮮やかに描いた、手塚治虫文化賞新生賞受賞の傑作です。

遊郭を描いた名作には杉浦日向子『二つ枕』もありますが、あちらが江戸吉原を舞台にしているのに対して、本作の舞台は大阪新町。より市井の暮らしと地続きの生活を描いているのが魅力です。

とにかく作者の自由で活気に溢れた描きぶりが素晴らしく(コモドオオトカゲが大阪に現れたり)、そしてただ奔放なだけでなく確かな歴史知識に裏打ちされていることも端々に感じられます。

 

 

 

一ノ関圭『裸のお百』

日本初の裸体モデル、お百を主人公とした中篇作品。黒田清輝の率いる東京美術学校の面々が活躍する日本洋画の黎明期を舞台に、世間を騒がせた腰巻事件などの顛末を描きながら、その影に埋もれたひとりの女性に光を当てる手つきが鮮やかです。

一ノ関圭先生といえば緻密な時代考証で知られますが、何よりも絵で人を圧倒させるマンガ家だと再認識しました。

 

 

 

 

ホラーマンガの部

ホラーマンガのマニアの中には、超常的な恐怖を上位に置き、人間の内側から来る恐怖を下に見る方もいます。ですが、個人的にはどちらのタイプも魅力的だと感じています。

今回ご紹介する二作は、いずれも「人間の内側から来る恐怖」に鋭く迫った傑作です。

 

佐藤 智一『夜の蝉』

表題作「夜の蝉」は、どこかホッとするようなヒューマンコメディで知られるマンガ家による異色のホラーマンガです。

いつもどおりの素朴な絵柄ながら、ふとした瞬間に突然の暴力が襲いかかり、一見ほのぼのとしたシーンでもずっと厭な緊迫感が漂います。

特に出色なのは、衝撃のラストページです。現実の底が割れて地獄があふれ出す。

これは自分の目で確かめてください。

 

 

 

円山 みやこ『嗤う花』

円山みやこは、現実社会で起きた陰惨な事件を被害者の視点から描いたホラーマンガを数多く残しました。子どもに対する肉体的・精神的虐待が描かれるため、気軽に他人に薦められる内容ではありません。

それでも個人的には、山岸凉子やささやななえこに匹敵すると感じる瞬間もあったり(さすがにそれは過大評価だと冷静になりますが)、兎にも角にも少女マンガホラーにおける極めて重要な作家の一人だとは思います。

収録作「傷の軋み」は非常に厭な気持ちになるので覚悟して読んでください。

 

蟲笛

蟲笛

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野球マンガの部

『高校球児ザワさん』や、最近であれば『ゆーあーすらっがー』など、男子の高校球児に混じってプレーする女子を描いた作品は定期的に盛り上がります。

野球マンガの中にあるサブジャンルの一つと言っていいでしょう。

 

あだち充『ハートのA』

野球とジェンダーの問題に、あだち充ははじめから意識的な作家でした。

習作の感はありますが、『タッチ』につながるエッセンスを感じることができます。

 

 

 

さそう あきら『シーソーゲーム』

表紙が腰を抜かすほどクソダサいですが、これは良作です。

 

シーソーゲーム (ヤングマガジンコミックス) | さそう あきら |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

名作マンガの部

問答無用で名作なマンガたち。

 

谷口 ジロー『捜索者』

南アルプスの山小屋の主・志賀は、山岳パートナーだった今は亡き親友の娘・恵美が失踪したことを知る。親友とその妻・縒子への思いから山を下りて15歳の少女を捜す志賀。その目の前に広がる大都会は、一瞬にして険しい山岳と化した。

無骨な山男! ハードボイルドアクション! 

谷口ジローの性癖を全部盛りしただけに見えますが、山男でなければ絶対に解決できない事件になっていて、マンガが上手すぎます。

 

 

 

近藤 ようこ『アカシアの道』

母がしかたなくわたしを育てたように、わたしもしかたなく母の世話をするのだろうか。いつまでーーーー

母子家庭で母親から厳しく育てられた主人公は、やっとの思いで家を飛び出し自立して生活していました。それなのに、母親がアルツハイマーになったことをきっかけにして再び母娘二人の生活がはじまってしまいます。

母娘の呪縛を描いたものの中では、最上級に位置する作品でしょう。

 

 

 

やまだ紫『性悪猫』

やまだ紫のことは、まだよくわかっていないのでこれから研究します。

でも、性悪猫を読んだだけで、すごいマンガ家だってことはわかります。

 

 

 

天久 聖一『お前』

ギャグマンガって、ここまで自由なんだって思いました。

 

お前

お前

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江戸川 乱歩 (作), バロン吉元 (画) 『陰獣』

原作をほとんど忠実にマンガ化しているので、お話について何かを申し上げることはないのです、もうとにかくバロン吉元が描く男の色気は凄まじいのです。



 

 

 

よくわからないマンガの部

よくわからないマンガです。

マンガはよくわからない方がいいと思います。

 

祭丘 ヒデユキ『シャングラッド神紀』

『レ研』などのナンセンスエロギャグで有名なエロマンガ家・祭丘ヒデユキ(実は、アフタヌーン四季賞出身でもある)のおそらく唯一出版された一般向けマンガ単行本です。

神々が支配する世界で、破壊神シヴァの力を手に入れた主人公が世界に反逆するバトルマンガです。

神々の戦いをバトルマンガにしたということで、『仏ゾーン』とかの系譜ですね。

しかし、キャラデザが独特すぎて素晴らしい。



シャングラッド神紀 (チャンピオンREDコミックス) | 祭丘 ヒデユキ |本 | 通販 | Amazon

 

 

守村大 (画), 小池一夫 (作)『ダット君』

 有名な小池一夫・原作でありながら、ネットにほとんど感想が見られない作品ですが、読んでみるとめちゃんこ面白かったです。

主人公・鈴木達人(ダット)は、応援団長でその役割に誇りを持っています。しかし、ゴルフというスポーツだけは応援して勝たせるということができません。それならば、自分自身がゴルフ部に入って部活を優勝に導こうというお話です。

とにかくゴルフの練習方法がめちゃくちゃで、

精神力を鍛えるために暴風雨の中、裸になってゴルフしたり、

ラブホテルで男性器に蛍光塗料を塗って、暗闇の中で光るソレめがけてパット練習したりします。

あと、このマンガにはゴルフ部部長の久美子というヒロインがいまして、ダット君との恋愛模様も大きな見どころになっています。

久美子の祖父から「ゴルフに集中するため、色恋にうつつを抜かすことがないよう男に対する不信感を植え付けてほしい。久美子を強姦してくれ」と迫られ、ダット君もそれをしぶしぶ受け入れるという、ポリコレに絶対に許されない展開もあったりしますが、ヒロインの好感度は高いです。

最後はなんかハッピーエンドです。

ちなみに、試合描写や技術解説はちゃんとしていて、そこだけ見れば普通にいいゴルフマンガです。

 

 

 

 

 

ヤンマガの部

ヤンマガらしさって何なんでしょう?

 

相馬 雅之『桜金造登場』

桜金造という男がわちゃわちゃやっているマンガで、なんということはないですが、表紙がいいので。

 

Amazon.co.jp: 桜金造登場 (ヤンマガKCスペシャル) : 相馬 雅之: 本

 

 

『米-ヤングマガジン15周年記念作品集』

90年代後期のヤンマガらしさを濃縮したアンソロジーで一読の価値ありです。

史村翔(武論尊)・原作で安達哲・作画の珍しい短編が載っていますが、完全に安達哲の味しかしなくて武論尊のことがよくわからなくなりました。

 

 

 

 

わけもなく切なくなるの部

わけもなく切なくなるマンガが好きなんです。

 

横槍メンゴ『めがはーと』 

横槍メンゴのことをなんとなく舐めてたことを反省しました。傑作です。

陰毛を同じ形に整えてる双子の話が好きです。

 

 

 

こがわみさき『魅惑のビーム』 

マッグガーデンのところでエニックス系の話を少ししましたが、エニックス系のもう一つの分派が「月刊ステンシル」「月刊Gファンタジー」のマンガ家たちですね。

こがわみさきは、その代表的な作家の一人です。表題作「魅惑のビーム」に出て来る高梨さんは「至高の眼鏡っ娘」です。野生の山岡さんは「究極の眼鏡っ娘」を準備しておいてください。対戦希望です。



 

 

石田敦子『いばら姫のおやつ』 

アニメーターとして有名な石田敦子の初期マンガ集です。

本作の特徴としては、90年代アニメ的な萌えキャラの絵で、80年代以前の少女マンガ的重いテーマを描いているところです。

ホームレスと心中未遂を起こした少女の話「東京ソーダ水」

学校教師と性交渉をもって妊娠した少女の話「天上の缶づめ」

石田敦子については、じっくり調べてみたい気もします。

エニックス系が少年マンガの中に少女マンガのエッセンスを持ち込んでいたとしたら、ヤングキングアワーズ系はヤング誌に少年マンガのエッセンスを持ち込んだんだと思うのだけど、この辺りは独自研究が必要ですね。

 

 

 

 

二宮ひかるの描く女が好きだの部

二宮ひかるは、本当に唯一無二で好きなマンガ家の一人です。

 

二宮ひかる『復讐のように』

はじめての男が粗チンだった思い出を、これだけリリカルに描けるマンガ家は他にいないでしょう。

 

 

それでは、さようなら~

玉置勉強読書会:課題本『恋人プレイ』

読書会することになったので、備忘録&自分の考えを整理する用。

 

 

作者基本情報

1973年、東京都新宿区生まれ、世田谷区育ち。東京都立青山高等学校、多摩美術大学美術学部デザイン科卒。

1994年に成年向け漫画誌『漫画クリスティ』(光彩書房)にてデビュー。

1998年に『恋人プレイ』(講談社『ヤングマガジンアッパーズ』連載)で一般向け漫画誌にも進出。

 

多摩美漫画部

山田玲司→ウエダハジメ、冬目景→沙村広明→玉置勉強

特に沙村広明とは親しく、『無限の住人』の作画も手伝っていた。玉置の成年向け単行本には、たいてい沙村からの応援イラストや漫画が寄稿されている。

 

成年向け漫画仲間

 

あと、安野モヨコがファンらしく、『夜伽ばなし』( 2004年、コアマガジン)を書いていたが、どういうつながりなのかはよくわからない。安野モヨコが玉置作品の何に惹かれていたのかは非常に気になる。

 

 

作品について

・成年向け作品については、純愛ものから鬼畜系まで発表媒体にあわせて様々な作風が見られる。

 

・一般向け漫画では、

①『恋人プレイ』 『玉置勉強短編集 ザ・ドラッグス・ドント・ワーク』のような少し暗い私漫画的作品、

②『東京赤ずきん』 『デスサイズキューティー』のような異能の少女によるバトル漫画、

③『彼女のひとりぐらし』『ほろ宵セレナーデ』のような女性キャラの日常系作品、

④『ツインズシング』のような別名義でやってる音楽漫画、

この四つにだいたい分けられるイメージ。

今回は①の私漫画的作品について主に扱いたい。

 

 

『恋人プレイ』について

雑誌初掲載時のアオリ

ヤングマガジンアッパーズの創刊号を手に入れた。

以下、載っていたアオリ文。

ハダカは見えてもハートは見えない

カノジョは「恋人」だったはず

ボクは「真剣」だったはず

不器用な2人の奏でる

アブノーマル・ラブ・ストーリー

隠れファン推定7ケタ、某ジャンルの巨匠、青年誌初登場‼

退屈な毎日は、「フツーじゃないオンナ」に壊される。

カラダから先につながった恋

 

……昔の漫画雑誌ってアオリ文が多くてビビる。

 

作者自身の評価

 

 

 

作者自身にとっても代表作のような位置づけ、そして自身の経験や聞いた話をかき集めた私漫画的作品と言える。

 

成年向け漫画の中で表現が磨かれた

『メロドラマティック』 1998年、ワニマガジン社

『恋人プレイ』1998‐1999年、 講談社

『セックス2000』 2000年、一水社

 

事実を指摘しておくと、『恋人プレイ』は成年向け漫画の仕事と同時並行的に描かれている。この三冊を比べると、そのテーマ性と表現においてかなりの類似点が見られる。

成年向け漫画を描く中で、洗練された表現が結実したのが『恋人プレイ』であると言える。

 

タイトルが意味するものとは?

レズビアンじゃないのに女の子と付き合ったり、ピアスをつけたり、SMショーに出演したり、恋愛をプレイとしてしかやってこなかった不器用な女性が、はじめてできた恋人とも「プレイ」を演じてしまう話です……かね。

佐伯とはじめてホテルに行ったときと、本田とはじめてSMショーに行ったとき。

奥野は同じ表情をしている。奥野にとっては、恋人に抱かれることもSMショーに出演することも「プレイ」でしかなかったのか?

 

 

玉置勉強的漫画表現とは

私漫画として―「畳の目=下着のしわ、あるいは奥野の耳」論

漫画家の川勝徳重に「畳の目から「私漫画」を考える。」という論考があるらしい。(不勉強ゆえ未読。)70年代に『月刊漫画ガロ』でつげ義春が「畳の目」を描く技法を発明し、主人公の内面表現の精緻化とパラレルに、漫画業界全体に広がっていた現象を論じているらしい。

あるいは、漫画評論家の伊藤剛に「ビンボー漫画のペンタッチ(描法)を解説する」という論考がある。(こっちは読んでる。)そこでは同じ部屋を描いていてもペンタッチによってビンボー度(ある種のリアリティ)が変わっているという指摘がなされている。ざっくり言えば、トーンを使ったり、定規を使って均等にひいた「かけアミ」よりも、手書きで不揃いな「かけアミ」には、「写実的なリアリズム」じゃなくて「肉体的なリアリズム」が宿るという話である。

この二つは、実のところ同じことを語っているような気がする。

畳の目を描くことは写実的じゃない。カメラで和室を撮った時に畳の目は映らない。畳の目を描き込むということは、自分の目で見たものを自分の手で描くという肉体的なリアリズムがある。「私漫画」にはそれが必要だった。

一方で、玉置は背景をほとんど描き込まない。トーンをべったり貼っているか、実写を取り込んで処理している。一方で、異常なまでに描き込んでいるのが、奥野の耳と下着のしわである。ここに、玉置作品における「肉体的なリアリズム」が宿っている気がするのだ。

 

 

間白の使い方―内面の発見

玉置勉強の漫画は、「間白」にキャラの内心を描く。

大塚英志は、70年代初頭の少女漫画において内面を描く技術の急速な進化があったとしている。その「内面」表現は絵によってではなく言葉によってなされる。具体的には、フキダシの中だけでなく、外側にも言葉を重ねていく技術として発明され、少女漫画における言語表現は80年代半ばにもなると、さらに「微分化」し多層化していくことになる。そして、80年代末には、そうした「内面」の表現者たちは成年向け漫画などに亡命していってしまう。

玉置作品は、そうした「内面」の表現者たちの系譜にあるように見える。特に多用されるのが、「間白」を使った内面の表現である。

「間白」とは夏目房之介の造語であり、漫画のコマとコマとの間にある空白のことであり、余白という空間の意味と「間」という時間的な機能を持つ。

玉置は、内面の言葉をコマの中に書く場合と、間白に書く場合とで明確に使い分けている。キャラの内面を、コマとコマの間、空間と時間から切り離された場所に置いている。

 

例えば、成年向け漫画では、以下のように間白を使っている。

これは母親がいなくなった家庭で父親と兄から性的な役割を求められている少女の話で超胸糞なんですが、間白に少女が心の中で自分に言い聞かせている言葉が入るんです。
でも、表情を見れば「割り切って」などいないことは明白で、ただの内心表現じゃなくて内心で自分に嘘をついている表現として間白を使っています。

『セックス2000』では、他にもトリッキーな間白の使い方が色々と試みられいます。この頃の玉置勉強は、町田ひらくに並べてもそん色ないと思います。

 

 

 

それでは、これで今回の読書会は終わりです。玉置先生の歌声を聴きながらエンディング。みなさん、さようなら。

 


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なぜマチルダは千鶴の薙刀お披露目を見て逃げ出したのか?【パリに咲くエトワール】

 

絶賛上映中のアニメ映画『パリに咲くエトワール』を見てきました。

薙刀術の達人少女がバレエに魅了されてパリに渡り、オペラ座の舞台に立つという夢に向かって傷つきながらもがむしゃら立ち向かう姿に涙せずにはいられない良作でありました。

「世界名作劇場」的というか、直球の少年少女のビルドゥングスロマンでありながら、格闘アクションアニメが異常に凝っているところも魅力的です。(薙刀少女の千鶴がバレエの動きを習得していくほどに、薙刀の動きに身体がフィットしなくなって対人バトルに弱くなっていってしまうのは、目標に近づくほど弱くなっていく意味で「どろろ」みたいだ、とかそんなことを考えながら視聴していました。)

 

閑話休題。

そういったうろんな感想はどうでもよくて、本作は吉田玲子脚本の濃厚な百合作品であるという話を今回はしたいと思います。『リズと青い鳥』に通じるバイブスを感じました。

とくに、なぜマチルダは千鶴の薙刀お披露目を見て逃げ出したのか?という問題について私の考えを書き記しておきたいと思います。

ここからは『パリに咲くエトワール』を視聴済みの方だけ見てください。

ネタバレ以前に未試聴では何を言っているか理解できないと思います。

 

マチルダは、オペラ座付属バレエ団所属のバレリーナで、若手のホープ。

唯一の東洋人として入団してきた千鶴に対して一見冷たい態度をとりながら、その才能を当初から認めている存在としてふるまいます。ツンデレという粗野な言葉は好きじゃないですが、まあそんなものだと思えば理解しやすいでしょう。

そんな彼女が千鶴が地域イベントで薙刀のお披露目を披露するということを聞いて見物にやってきます。イベントに向かう彼女の姿は楽しそうなものでしたが、薙刀の型を披露している千鶴を見た瞬間に彼女は顔を曇らせ、その場から立ち去ってしまいます。なぜ彼女は急にそのような行動をとったのでしょうか。

 

まずは、マチルダが千鶴にどのような感情を抱き、千鶴の何を知っていたのかを整理しましょう。

マチルダが千鶴にはじめて出会ったのは、オペラ座付属バレエ団の入団試験です。審査されている千鶴を、マチルダは若手団員のホープとして見学しています。

はじめは他の団員と同じように東洋人である千鶴を奇異の目で見ていたところもあるかもしれませんが、マチルダが早いうちから千鶴の才能を見出し認めていたことが描写の端々に伺えます。

とくに自分に何が足りないのかわからず悩む千鶴に対して、的確な指摘を行い、戦火が迫りバレエも満足にできない状況において「あなたのような優秀なダンサーが足踏みしていてはいけない」というような叱咤激励を飛ばすシーンは印象的です。(一回見ただけなので正確な台詞はわかりません。ニュアンスです。)

これら一連のシーンから、マチルダがただの自己満足のためにバレエをしている少女ではないということがわかります。彼女はまさにバレエを心の底から愛しているがゆえに自分にも他人にも厳しいタイプのキャラクターなのです。

彼女は若手のホープなので、千鶴を叱咤激励して引き上げようとするということは、自分が舞台に立つときに千鶴が隣にいることを望んでいるということでもあります。

マチルダにとって千鶴は、自分がはじめて才能を見出し切磋琢磨しながらいつかは同じ舞台で輝く存在なのです。

 

そして、マチルダは運命の薙刀お披露目イベントに向かいます。

このイベントに向かうとき、彼女は千鶴が薙刀という武道をやっていたことを知っています。バレエをはじめる前はそれに打ち込んでいたこともある程度は知っていたでしょう。

ゆえに千鶴が薙刀をやっているだけでショックを受ける謂れはありません。

では、なぜ彼女はその場から逃げるように立ち去るほどのショックを受けたのでしょうか。

千鶴と薙刀、そこにもう一つ重要なファクターがその場にはありました。

そう本作品のもう一人の主人公であるフジコです。

 

フジコは画家を夢見てパリに渡り、千鶴と出会って、彼女のバレエの夢と才能を見出し、時に励まし時に喜びを分かち合う存在でありました。

マチルダは当然ながらフジコの存在を知りません。

マチルダは薙刀お披露目の場ではじめて、フジコと千鶴が一緒にいるところを目撃したのです。その時の千鶴はバレエの練習では見せたことがないような自然体の笑顔でした。

 

私たちは、観客として作品の全体を俯瞰して見ています。だから、この作品世界がフジコと千鶴を中心にして回っていることを知っています。しかし、マチルダから見れば、世界の中心はマチルダと千鶴だったのです。千鶴の才能をはじめて見出して、お互いに切磋琢磨しながら同じ夢を見ている、そう思っていました。

しかし、フジコと薙刀に興じる千鶴を見たときに、それが間違っていたことを悟ります。はじめてマチルダは観客として千鶴を見ます。

 

千鶴の才能をはじめて見出したのはフジコでありマチルダじゃない。

千鶴と切磋琢磨してお互いに支えあっていたのはフジコでありマチルダじゃない。

千鶴とはじめて同じ舞台に立ち輝いたのはフジコであってマチルダじゃない。(それがオペラ座という輝かしい舞台じゃないとしても)

千鶴にとって真に特別なのはフジコでありマチルダじゃない。

千鶴のはじめてはすべてフジコに奪われていることを、マチルダはその時悟ったわけです。

ああ、世界はかくも残酷なり。

Q.E.D. 証明終了。

(まあ、実際はそこまで明確に悟ったわけじゃないと思いますが、マチルダは薙刀術にではなくてフジコと一緒にいることにショックを受けたというのが私の説です。

あなたにもありませんか。高校の友達と休日に地元のショッピングモールで偶然出くわして、友達の方は自分の知らない中学の友達と一緒にいたりして、なにかいつもと違う友達の様子にショックを受けるみたいなことが。マチルダはそんな気分だったと思います。)

 

 

【2025年ベストマンガ】このマンガもすごかった!

このマンガがすごい!」には隙がある!

世の中にはすでに宝島社「このマンガがすごい!」が存在するのに、お前はどうして毎年懲りずにマンガランキングを作っているのかと問われたら、理由のひとつは「このマンガがすごい!」は隙だらけだからだと答えます。

まずは、あまり意識することのない「このマンガがすごい!」のレギュレーションを確認してみましょう。

・10月1日から9月30日の期間に、単行本が発売された作品を対象とする。

・同作品に対して、オトコ編とオンナ編の選者からそれぞれ得票があった場合は、選出人数の多い方へ合算。

つまり、9・10・11月頃に発売された作品は不利になりやすいということです。9月は締切ギリギリすぎて読まれないですし、10・11月頃の作品は次のランキング投票時期には記憶から滑り落ちてるケースが多いです。

そして、オトコ編とオンナ編の得票が合算されているということは、男女両方から支持されている作品が上位になりやすく、逆に男のみ女のみから支持の厚い作品は不利ということを意味します。例えば、今年のオトコ編1位『本なら売るほど』は、オトコ編の93点とオンナ編の88点が合算されています。オトコ編2位の『壇蜜』は、オンナ編からの点はなく、オトコ編の点だけでランクインしているので、この合算システムがなければ1位が入れ替わっていた可能性もあります。

現在の「このマンガがすごい!」のシステムが悪いものだとは思いませんが、このレギュレーションのもとで選定されたランキングには様々な偏りが生まれていることは知っておいてほしいものです。

ゆえに、世のマンガ読みは積極的に個人ランキングを発表することで、この隙を埋めることには大変な意義があると考えます。みなさんも個人ランキングを作りましょう!

では、アジテーションが終わったので今年のランキングにいってみましょう。

2025年(1~12月)に刊行されており、発表媒体やジャンルにこだわらず面白いマンガ作品はすべて対象です。

 

 

今年1巻が刊行されたマンガ

【1位】温泉 中也『現象X 超常現象捜査録』

原因不明の自然発火による連続焼死、住宅街のミイラ、冬に咲くヒマワリ。報告される超常現象の裏に潜む謎を、ネコ耳刑事とはぐれ者捜査官が追うことになります。

作者も影響を公言している通り、1993年から2002年にかけてアメリカで製作され世界中で大ヒットしたテレビドラマ『X-ファイル』のように、超常現象をテーマにした犯罪を追うストーリーと、気鋭のアニメーターとしての腕を生かした映画的な画面構成が光る作品です。あまりの完成度に、本家『X-ファイル』に迫る魅力が感じられます。

人の死の謎を追いかける物語として、死を予言する犬・エヌエヌに導かれながら様々な事件に巻き込まれていく主人公・里那を描いた横山旬『No murder No life』もおススメです。

 

 

 

【2位】鄭大河『描季師』 

血を墨として描いた絵を世に顕現させる“描季師”。その描季師の養成所で少年キキは、力が強すぎるとして“禁制の間”に封じられてしまった妹カヤを助けんと修行を重ねています。そんなある日、カヤを縛り付けている封印が弱まっていることがわかるのですが、それは残酷な運命のはじまりでした。

超絶作画によるバトルが圧巻の作品です。掲載されているのは青年誌ですが、勢いに乗っている少年マンガ的バトルマンガを読んでいる時の高揚があります。今年のダークホース、ぜひ読んでみてください。

 

 

 

【3位】清野とおる『「壇蜜」』

青野くんに触りたいから死にたい』の椎名うみが、インタビューで「話を作るときはまず最初に主人公が取り返しのつかない行動をとるところからはじめる」というようなことを言っていたのが印象に残っています。

壇蜜と結婚するというのは、最上級に「取り返しのつかない行動」ではないでしょうか。そりゃ面白いですよね。

取り返しがつかないと言えば、会社内の性暴力を題材にした社会風刺マンガかと思いきや「取り返しのつかない行動」を五月雨式に実行していく主人公がスリリングな冬野梅子『復讐が足りない』にも要注目です。

 

 

 

【4位】宮崎夏次系『カッパのカーティと祟りどもの愛』

笑った顔が不気味だと人から避けられ、唯一の家族である祖父も失った口酒 祝。そんな彼女が出会ったのは、関西弁を話す幼いカッパでした。仕事や寝床を求めて、放浪する祝とカッパの周りには、神様や化け物、ヨーカイに悪霊など、「ふしぎ」が集まってくるのでした。
孤独と呪いに囚われた人々の淋しさを描かせると、宮崎夏次系の右に出るマンガ家はいないでしょう。今回はそこにいっぱいのオカルトと「ふしぎ」を添えて、会心の宮崎夏次系最新作です。

 

 

 

【5位】田川とまた『CHANGE THE WORLD』

「演劇で世界を獲る」親友にそう誓った浜野陽太は、全国中学校総合文化祭で村岡茉莉の演技に圧倒されます。二人は高校で再び出会うことになるのですが……。

タイトルが示す通り、演劇によって世界を変えようとする高校生たちの物語です。非常に熱い言葉が飛び交う話ですが、その言葉を読者にも投げかけてくるように登場人物たちは頻繁に真正面を向いて、まっすぐにこちらを見つめてきます。本作を読んでいると、その視線に吸い寄せられるように没入してしまうのです。

 

 

 

【6位】大森かなた (作画), 殺野高菜 (原作) 『ウリッコ』

歌舞伎町のネカフェで暮らし自分の身体を売って生計を立てるキズミは、人生に夢も希望も抱けずに惰性で生きていました。しかし「漫画家が良い暮らしをしている」という話を聞き、日々出会う男たちのピロートークとネカフェのマンガたちを糧にして、マンガ家を目指すようになるのでした。

奇をてらった設定に見えて、今最も熱い令和のマンガ道。創作の苦しみと面白さのぐちゃぐちゃが余すことなく表現されています。

惰性で生きている女子高生がカメラでシャッターを切る楽しさに目覚めていくワタヌキヒロヤ『SUNNYシックスティーン』もおススメです。

 

 

 

【7位】大山 海『力石持つ』

昔々ある村に、力持ちの兄と非力で頼りない弟がおりました。その頃、重い力石を持ち上げることができる者が村で一番偉い時代でした。ところが、村で一番の力石持ちであったその兄は突如、村から姿を消してしまい、代官の命で弟が兄を追うことになりました。

転がる力石と非力な青年のロードムービー。暴力と狂気にまみれた新たな神話。傑作です。

 

 

 

【8位】光用千春『次の整理』

高校生の時、一瞬だけ隣の席になった黒川といじめられっ子の天野は、ひょんなきっかけで10年振りに再会することになります。売れっ子小説家になっていた天野に対して、清掃員の仕事につきながら小説家を目指す黒川は戸惑います。

創作に関する「天才」の物語ですが、天才を描くことは非常に困難なことです。そこで苦し紛れとして作者は天才を極度の奇人として描いたりするわけですが、本作の力点はそこにあるわけではありません。「凡人」を描くことによって「天才」を描こうとしているのが本作です。天才じゃない人物を描いていくことで逆説的に天才を描く、非常に冴えたやり方です。

 

 

 

【9位】藤見よいこ『半分姉弟

今年は『生活保護特区を出よ。』のまどめクレテックのトークイベントに言ってきたのですが、そこで登場人物を描くときに「みじめでもなく、かわいそうでもなく、たくましくもないように描きたい」というようなことを言っており、ちょっと感動しました。「たくましくもない」というところがミソで、人間というものはたくましく見えたとしても見えているだけで基本的に弱いものです。しかし、弱いからと言ってみじめでもかわいそうなわけでもない、そういうことが大切なのだと思います。

『半分姉弟』はきっと同じテーゼからつくられた作品だと思います。

 

 

 

【10位】あむ『澱の中』

五味次郎、29歳童貞、弱者男性。彼にとってセックスとは画面の中の出来事でしかありませんでした。しかし職場に黒髪ロング眼鏡巨乳の新入社員・夢空黒子がやってきてから、次郎の生活は一変してしまうのでした。

「圧倒的な拒絶と共感。読む者を分断するヤンマガ最大級の問題作」というキャッチコピーもおおげさではありません。ヤンマガにありがちなエッチで下品なマンガかと思いきや、拒絶したくなるような過激な題材と様々な驚きの展開で読者を引き込むリーダビリティを備えた作品です。女性のセックス中の心情を表現した作品はたまにありますが、男性側の心情をこれだけ精緻に描いたマンガはちょっと思いつかないです。

 

 

 

【11位】住吉九『サンキューピッチ』

『サンキューピッチ』が面白いことは有名なので、ここでは少し趣向を変えた話をひとつ。

私はマンガの表現は、発表媒体によって変わっていくと考えています。つまり、マンガ雑誌で連載する場合は、その雑誌における読者層や編集部の方針によって表現が最適化されていくと。それに比べると、「少年ジャンプ+」のようなマンガ配信サイトは、サイト毎の特徴というのも捉えづらいところがありますが、ひとつ確実に言えるのは、雑誌と違って配信サイトではどの作品がどれだけ読まれているのかが残酷なほどはっきり可視化されてしまうということです。

ゆえに、雑誌よりも1話毎にどれだけネットで話題になって広く読まれるかということが重要になります。雑誌連載の場合は、ある程度の固定客がついてしまえば、じっくりと話の展開を進めても問題ありませんし、クリフハンガーで読者の気を引くことも有効です。しかし、配信サイト連載では起承転結をできるだけ早く回して1話毎の満足感を高めることの方が重要です。後々話を盛り上げる仕込みとしての溜めやクリフハンガーを乱発することはやりづらいはずです。だからこそ、『サンキューピッチ』のように1話の中で起承転結を回していく展開の早い独特なストーリー展開が生まれたのではないでしょうか。

『野球・文明・エイリアン』もそういう意味ではすごいです。主人公たちが子供をつくった話の次にはもう孫世代の話になっています。数十年が1話で処理されていく、スピード感が異常なマンガです。

 

 

 

【12位】ぐみさわ『ぷらぷらチッケッタ』 

職場では孤立して便所飯をしている狸穴。ふと、出かけた公園で職場の谷戸先輩と出会う。この出会いがメイドの埴谷さんも巻き込んで、狸穴の生活を変えていくことになります。

社会生活に疲れたOLたちが、童心にかえって街中をぷらぷらするマンガです。それだけですが最高です。

仕事に疲れた女性が北海道に移住してゆらゆらするながらりょうこ『北国ゆらゆら紀行』もおススメです。

 

 

 

【13位】与左衛門『ヤン女は竜の夢をみる』

超バズ人気の「たまごキャラ漫画」を投稿する女子高生ユメコの夢は、ステゴロ最強にして暴ヤン魂バリバリの超絶ヤンキー漫画を描くこと。しかしそんな折、ダブリのパイセン・宮元竜次と関わった事から、クソ熱きヤンキー漫画街道をキュートにホットに驀進することになるのでした。

このマンガのジャンルはよくわかりません。よくわからないなりに勢いがあって面白いんです。よくわからないですが、個人的にはラブコメだと思っています。

王道ラブコメ路線では、山本崇一朗『マネマネにちにち』をおススメします。

 

 

 

【14位】三本阪奈『マイペースと歩く』

超絶マイペース男子と悩める思春期女子の高校生活を描いた作品です。

何かに引き寄せて話すならば、『スキップとローファー』なんかに近いとは言えます。しかしそれでは何も言い表せていなくて、不思議な魅力があると言うしかない作品です。

不思議な魅力と言えば、御座井マス『嶋田と和泉』にもなぜか惹かれます。

 

 

 

【15位】千葉ミドリ『緑の予感たち』

夢の中のカッパの理髪店に翻弄されるかつての恋人たち。海辺の旅館を訪れる謎の未来人と女中の共闘。不思議な犬と暗渠に迷い込む雨の夜の冒険。都市伝説の巨大な猿に盗まれた靴と記憶……。

圧倒的な画力で描かれる悪夢的奇想の世界。

悪夢的奇想と言えば、熱焼江うお『んば!』もお忘れなく。

 

 

 

【16位】三浦靖冬 (漫画), 北村薫 (原作)『ベッキーさんと私』

ミステリー作家・北村薫の代表作のひとつである「ベッキーさん」シリーズを、三浦靖冬による作画でコミカライズした作品です。三浦靖冬は、どこか儚げな少女と緻密に描き込まれた背景を特徴とする画風で評価されているマンガ家です。

ミステリー小説は、根本的に情景描写と会話劇が中心となるのでマンガに向いていないと私は考えています。ゆえに、多くのミステリーマンガでは色々な工夫がされているのですが(金田一少年であればホラーサスペンス要素を足したり、コナンだったらスパイアクションを足したりですね)、本作は三浦靖冬というマンガ家の特徴である、「どこか儚げな少女と緻密に描き込まれた背景」によってそうした問題点を乗り越え、読者を飽きさせないことに成功しています。

 

 

 

【17位】カメントツ『こわいやさん』 

ここは『どうぶつ村』。かわいらしい『どうぶつ』たちが様々なお店を開いています。うさぎさんが出すお店は『こわい』を売る『こわいやさん』。

どうぶつの森」のような世界で怖い話を売る店を描いたホラー作品です。ファンタジックな世界観に幻惑されますが、その設定の裏には作者の企みがありました。

2024年に真島 文吉『右園死児報告』というホラー小説が刊行されました。あれはここ10年のホラー小説の中でも最も画期的だったもののひとつだと思います。(具体的には、「SPC」的なものを物語として編集しなおして成立させたことが画期的でした。)本作はおそらくその影響のもとにつくられたはじめてのマンガではないでしょうか。

 

 

 

【18位】意志強ナツ子『マオニ』

リーダーの真央を中心とするギャル7人組、通称「マオセブン」は輝かしい青春を謳歌していました。しかし突如到来したゾンビ禍により真央が行方不明になり、残された6人の結束は大きく揺らぐことになります。

意志強ナツ子はこれまでも信仰の問題を主に取り扱ってきましたが、今回はゾンビ禍という極限状況の中で7人組の女子高生がギャルという信仰を試される話になっています。いつものことですが、切り口が奇妙で、意志強ナツ子味というほかありません。病みつきになる味です。

あと、無事完結した『るなしい』も要チェックです。

 

 

 

【19位】森野 昼『ルナナイト』

地上げ屋の極道に営んでいた花屋を焼かれてしまった女子高生・雨野瑠奈は、本能のまま極道・西場組の事務所を襲撃、壊滅させてしまいます。簡単に人殺しができてしまう自分に戸惑いながら、瑠奈は行方不明の姉を探し東京へ向かうのですが……。
女子高生がガンアクションをするという食傷気味の題材ですが、マーシャルアーツとガンアクションを組み合わせたような戦闘シーンの作画がすごいので、まったく飽きることなく読むことができます。はじめてガン=カタを見た時のような感動があります。

 

 

 

 

 

全1巻・短編集

※上下巻は全1巻と同じ扱いにします。

 

【1位】灰田 高鴻『灰かぶりの天使』 

どこか暗くて世紀末の退廃が迫る90年代のある高校のお話です。さえない青春を送る荻原由紀は、不良少女・鮫島彩子に恋をしていました。彩子を理想化し、淫靡な自慰行為で抑えこんでいた恋は、「彩子の援助交際の噂」を聞いたことで動き始めます。

灰田 高鴻は、何かに夢中になっている人間の愚かさと輝きをあけすけに描いてきたマンガ家です。彩子を追い求める荻原の真っすぐすぎる感情は、滑稽でありながらどこまでも純粋です。ぜひ中島みゆき「やまねこ」を聴きながら読んでほしい、90’sデカダン派百合の傑作です。

 

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【2位】桜井 画門『THE POOL』

亜人』の桜井画門による、未知のモンスターがはびこる惑星で不審なSOS信号をキャッチしたある部隊の活躍を描いたSFアクション大作です。

桜井画門先生がマンガがうまいことは充分に知っていたつもりですが、ここまでうまいのかと度肝を抜かれました。部隊の隊員全員のキャラが立っていて、全員に見せ場があるという当たり前の面白さを当たり前にやってくれます。いいキャラというのは初登場で読者に「こいつは何かやってくれるぞ」と期待させて、期待以上のことをやってしまうものです。

 

 

 

【3位】緒川みのる『ガレキ街のルウとメエ子』

星間都市と地上に二分化されたディストピア。星間都市への移住を目指すルウは、楽天的で誰からも好かれる同居人・メエ子を煩わしく思っていました。しかし、メエ子の〝推し活〟を通して2人の関係は変わっていきます。

女子中学生が読むようにチューニングされた銃夢みたいなマンガ。

言葉はいらない、すごいから読んでみて。

 

 

 

【4位】花園照輝『悲しいことなんかじゃない』

 

乳首にピアスを開けているのに処女のアサヒは、フツウの恋を探しているけれど交際が長続きしないことに悩んでいます。一方、親友のサナはヒモ彼氏とただれた同棲を続けています。そんな中、アサヒはあるきっかけから同じアパートに住む大学生・前田と出会うことになります。

80年代後半から90年代にかけて、松本充代岡崎京子といった反少女マンガの黒い水脈があるとすれば、その令和に生まれた結晶が花園照輝なんじゃないかしら。素晴らしすぎます!

 

 

 

【5位】高木 りゅうぞう『高木りゅうぞう作品集 ツイステッド』

90年代前半、2年にも満たない活動で多大な影響を遺した天才マンガ家・高木りゅうぞう」の全作品を単行本化したものになります。

華倫変よしもとよしともが影響を公言していた作家で、実際に読んでみると、絵や構図は完全に華倫変、内側から爆発しそうな若者の心情を静謐に描く画面構成は完全によしもとよしともです。つまり、傑作ってこと。

 

 

 

【6位】いましろたかし『つりまん』

コロナ禍が終結した近未来の日本、大の釣り好きの中年コンビが日本全国の渓流を探し訪ねるがそこで出会うのは言葉を話す不思議な動物たちだった。

人間のしょうもなさを笑いに落とし込むと、さすがに熟練の域です。

 

 

 

【7位】カラスヤサトシ『完本 いんへるの』 

2018年~2021年にWeb連載され、諸般の事情により単行本化されていなかった膨大な数のエピソードを含む全話を収録した完全版です。

現代で最も優れた怪談師のひとりがカラスヤサトシだと思います。人々の営みの中にふと現れる地獄を描き出すのが抜群にうまいのです。

 

第一話「手足尻髪」より

 

 

【8位】コトヤマコトヤマ短編集 ファンフィクション』

マンガには見開きの魔力というものがあります。ページをめくったら見開きであっと言わされるそんな瞬間を求めて中毒になっているのがマンガ読みです。そんな中毒患者のための作品です。

 

「ミナソコ」より

 

 

【9位】トキワセイイチ『三角兄弟』

宇宙から来たかわいい3つの三角形の物体が、地球に観光にくる宇宙人のサポートをしている主人公と共同生活をはじめます。いわゆるファーストコンタクトですが、話が進むにつれて、世界の残酷さと人間のあたたかさが胸に来る物語です。

 

 

 

【10位】さとかつ『琉球蟹探訪』

カニ、ミミズハゼなど、奇妙な海洋生物を扱ったちょっと不思議な冒険譚の数々に圧倒される短編集です。作者自身も生き物のフィールドワークを行っていて、深海魚ミズウオの胃内容物を調べた写真集なんかも出してます。好きこそ物の上手なれとは言いますが、好きなことと描きたいことが一致しているマンガ家は強いです。

 

satokatu031.booth.pm

 

 

【11位】山口晃『趣都』

大和絵のようなタッチで、非常に緻密に建築物などの風景を描き込んだ作品で知られる画家・山口晃のマンガ作品です。「電柱」の華道や階段だらけの屋敷など、奇想と愛に溢れた建築物マンガです。

 

 

 

【12位】伊藤九『ランチユーインザスカイ』 

ちょっと松本大洋を思わせますが、独特な絵を描きすでに自分の世界観を持っているマンガ家です。才能しか感じないので、期待値も込めてランクイン。

 

 

 

【13位】中村明日美子『佐条利人の父とその部下』

息子が男と結婚したことを受け止め切れていない中年男性のもとに、ゲイの部下ができて……という話です。息子との距離を測るように、その部下と親密になっていく過程が丁寧に描かれています。

部下からゲイであることをカミングアウトされたあとに、セックスはできない代わりにということで部下に手淫をはじめる主人公に衝撃を受けたのでランクインです。

 

 

 

【14位】ヤマシタトモコ『SUGAR GIRL』

高野文子が『棒がいっぽん』を発表したあたりで「あの頃はどんなものでも描けると思ってた」みたいなことを言っていた気がするのだが(記憶があやふや)、今のヤマシタトモコにもそういった全能感があるじゃないかと思うぐらい自由に描いてる短編集です。「CLING ONCE, BLINK TWICE.」があまりに身も蓋もない話を詩情で押し切っていて個人的お気に入りです。

 

 

 

 

読み切りマンガ(雑誌・ネット掲載)

【1位】下川林『雨鎮』

下川林さんは中国からの留学生で「中国志怪小説に基づくホラーマンガ」を描いているマンガ家です。今年は四季賞受賞作「囍(ダブルジョイ)」や「ゴッドマザー」といった読み切り作品も発表し、精力的に活動しています。緻密な背景描写がホラーな雰囲気を盛り上げていて、どれも素晴らしい出来です。日本的なマンガ形式でありながら極めて中国的な題材との融合にも成功しており、今年最も注目したいマンガ家の一人です。

 

 

 

【2位】的野アンジ「転光生」

『僕が死ぬだけの百物語』の連載を完結させた的野アンジのショートショート。短いのでありがちな展開の話ですが、不思議と読ませます。連載化希望。

 

www.sunday-webry.com

 

 

【3位】桜壱バーゲン『毎日、病んでます』

いつもは下品なマンガばっかり描いている桜壱バーゲンですが、エッセイになると妙に哀愁漂う感じになって味わい深いです。カフカ『変身』のコミカライズの時から好きです。

 

mangaspa.nikkan-spa.jp

 

 

【4位】河部真道「斬首」

フランスの化学者・アントワーヌ・ラヴォアジエがギロチンで処刑された際に、処刑後の人間にどの程度の時間にわたって意識があるかを検証する実験を行ったとする逸話(実はそんな事実はなく、都市伝説のたぐい)を題材に、場所と時代を日本の江戸後期にして処刑される人物に新たな設定を追加することで端正な人情噺に仕上がっています。それを支える画力もすばらしく出色の出来です。

 

kuragebunch.com

 

【5位】緒木鈴人『せかいはまわる』

悪夢みたいなマンガです。昔だったら『ガロ』に描いてそうな(古屋兎丸とか)、独特のセンスが光ります。ダークで狂気的でありながらシュールでユーモアも感じさせます。

 

 

 

【6位】エ☆ミリー吉元「マンガ原稿のある暮らし」

バロン吉元の娘・エ☆ミリー吉元によるマンガ原稿に関するルポマンガです。毎回、マンガの巨匠たちの子供たちが登場して、マンガ原稿という遺産への向き合い方を語ります。他にない視点で描かれているのが面白く、エ☆ミリー吉元さんも父親に負けない自由な作風で読んでいて楽しいです。

ところで、父親のバロン吉元寺山修司あゝ、荒野のコミカライズを出しましたが、相変わらず男の色気があっていいマンガです。要チェック。

 

www.1101.com

 

 

【7位】木陰ひな田「正しさの行方」

第87回ちばてつや賞一般部門の入選受賞作品です。

男性にトラウマを抱えた女性が主人公で暗くなりがちなテーマですが、意外な展開もあり読ませます。最後は救いが見えるのもいいです。期待の新人ですね。

 

comic-days.com

 

 

【8位】萌ビウス「外匯券」

もともとコミティアの合同誌に寄稿したものをアップしたものです。

ゼロ年代のマンガ読みは個人サイトを巡って変なマンガを探すのが日課でしたが、その時の気持ちが強烈によみがえってきました。自分がマンガを読んでいる理由は、究極的には読んだこともない変なマンガが読みたいからなんです。

 

mikanixonable.net

 

 

【9位】山中美容室 「収容所群島

この人が描くマンガがそこはかとなく好きです。黒田硫黄の系譜にありつつ、そこから脱出するエネルギーを感じます。なぜか古本屋のHPでマンガを描いていますが、短編集を出してほしいです。

 

mizutamakaitori.com

 

 

【番外】認知の歪み 1話

学生カップルの不毛な会話のやり取りを描いた作品で、あまり読んだことがない面白さのある作品だったのですが、消えてしまっているのでここにブクマを貼って偲びます。

 

b.hatena.ne.jp

 

 

 

マンガ関連記事・書籍

【1位】きらら4コマの描き方

まんがタイムきららMAX」にて連載中のマンガ家による「きらら4コマ漫画論」です。表現方法から4コマの可能性を探る論考で、目から鱗が落ちまくり! ヤバすぎ!! 

 

kokamumo.hatenablog.com

 

 

【2位】大場 渉, 森 薫, 入江 亜季『マンガの原理』

「雪割草」とかいうマンガ専門の新出版社を立ち上げるらしいことも話題になっているお三方の共著です。大場 渉という編集者の特殊性には注目せざるを得ません。

 

 

 

【3位】『マンガ・スタディーズ』創刊

国際マンガ研究センターからオンラインジャーナル『マンガ・スタディーズ』が創刊されました。それに合わせてYouTubeチャンネルも開設され、在野の人間でもマンガ研究の最新知見の一部が見れるようになったのは大変意義があると思います。

マンガ史の通史的記述を試みた著作に今となってみると見落としている部分が多いのは、私も普段から問題だと感じているところなので、世界のどこかで同じ問題意識を持った研究者がいることには励まされます。

しかし、『マンガ・スタディーズ』のHPが消失してるので不安ですね。

 

youtu.be

 

 

【4位】林静一(亜蘭トーチカ・川勝徳重)『林静一漫画術』

『赤色エレジー』で有名な林静一の全漫画作品について、作者自身が語ったインタヴュー本です。まさにその創作活動の隅々まで語りつくした内容で、これ以上豪華なインタヴ―本は考えられない出来です。

 

booth.pm

 

 

【5位】漫画編集者たちへ…『彼岸花』の帯がお前たちに見えるか?

トーチの編集者って、マンガ編集がうまいだけじゃなくて文章も書かせたらうまいんです。

 

to-ti.in

 

 

【6位】笠井スイさんと、旅の仲間たち

笠井スイの訃報はショックな出来事でした。

この追悼記事には胸に来るものがりますが、雑誌「Fellows!」に対する内部からの貴重な証言でもあり、一読の価値ありです。

 

geselleestelle.blogspot.com

 

 

【7位】漫喫の漫画ぜんぶ読む

マンガ家が漫喫のマンガを片っ端から読む記事です。マンガを読む解像度が高い人の感想はなんぼあってもいいですからね。

 

note.com

 

 

おわりに

2025年も多くの面白いマンガに巡り合うことができました。

最後に2026年期待の新連載を貼っておきます。

では、本年もよろしくお願いします。

 

yanmaga.jp

comic-days.com

bigcomics.jp

kuragebunch.com