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雑文置き場

【2022年度版】すごかった漫画(49作品+α36作品)

はじめに

去年もやったので毎年やっていきたいですね。見ていただけたら励みになります。

 

msknmr.hatenablog.com

 

 

・2022年(1~12月)に刊行された漫画が対象です。

・長編or短編、完結or継続など、ざっくり分類分けしています。

・大枠分類の中の並びは、個人的な順位付けになっています。基本的に上に掲載されているものの方がオススメ度が高いです。

 

 

今年1巻が刊行された継続作品

 

冬虫カイコ『みなそこにて』

母親に捨てられた少女が引っ越してきた町には、人魚が棲むという言い伝えがあった。捨てられたと認めたくない少女は、頑なに周囲にも溶け込まずにいたが、そこで不思議な少女“千年さん”と出会う。彼女は善きものなのか、それとも…?ぞっとするほど美しい【人魚】と【少女】の異類譚。

今年NO.1の伝奇ホラー。田舎の町で恐れられ見ないふりをされている”人魚”の存在は、その町で暮らす少女たちの学校や家庭で見ないふりをされている心と共鳴していく。一つの田舎町で生きる様々な時代の少女たちが抱えていた孤独や寂しさが、ずっと過去になっても人魚の形をとってその町にある。こんなに美しくて恐ろしいホラーは他にないでしょう。

過去においてきたはずの憧れや寂しさを蘇らせる作者の鮮やかな手腕は、最新短編集『回顧』においてもいかんなく発揮されているので併せて読みたい。

 

とよ田みのる『これ描いて死ね』

東京の島しょ・伊豆王島に住む安海 相は、漫画が大好きな高校1年生。長年活動休止状態の憧れの漫画家☆野0先生がコミティアに出展することを知り、東京都区内に旅立つことに…そしてコミティア会場での思わぬ出会いが相の人生を変える!

この作品は、「漫画を描くこと」についての漫画であるが、それ以上に「コミティア」についての漫画と言ってしまうこともできるかもしれない。言い換えれば、コミティアというイベントが実在するという現実の強度によって支えられている漫画だと。

”漫画を創作することの楽しさ”を伝える漫画作品はあまた存在する。あまた存在するが、この漫画ではただ独りでもくもくと創作しているだけでは味わえない喜びにあふれている。自分以外にも漫画を描くことに情熱を持っている人々が大勢いることを知った時に感じる異様な高揚感、そういったものが表現されている。

私がはじめてコミティアに一般参加したのはもう10年ほど前になると思うけれど、会場に並んだ机の一つ一つにオリジナル漫画が山と積まれているのを見た時、その感動はとても言葉にできない。そんなに多くの人間がオリジナル漫画を描いて今日この場所に集まったという圧倒的なリアルに、大学生の私は打ちのめされてしまったのだ。私が実際に感じた感動が、この漫画の中ではそのまま再現されている。

 

トマトスープ 『天幕のジャードゥーガル』

後宮では賢さこそが美しさ。13世紀、地上最強の大帝国「モンゴル帝国」の捕虜となり、後宮に仕えることになった女・ファーティマは、当時世界最高レベルの医療技術や科学知識を誇るイランの出身。その知識と知恵を持ち、自分の才能を発揮できる世界を求めていたファーティマは、第2代皇帝・オゴタイの第6夫人でモンゴル帝国に複雑な思いを抱く女・ドレゲネと出会い、そして……!? 

本作では、主人公・ファーティマが奴隷の身分からモンゴル帝国の闘争に巻き込まれ、その時代のうねりの中をサバイブしていく様子が描かれている。現代に生きる私からすると想像もつかない世界ではあるが、歴史に翻弄される少女が抱える絶望と逞しさ、その両方が余すところなく伝わってくる。その表現力には圧倒されるばかりで、まだ一巻しかでていないにも関わらず、これは歴史に残るような傑作になるぞという予感を感じさせる。

また、中央アジアの意匠や風俗をデフォルメに落とし込んだトマトスープの画風も(細密画的な『乙嫁語り』を知っているがゆえに)新鮮である。

 

まどめクレテック『生活保護特区を出よ。』

1945年、大きな戦争により荒廃した日本は福祉と治安維持のため二つの政策を行った。一つは東京を復興し「新都トーキョー」をつくること。もう一つは、能力不振や病気、障害等により自立困難な者に国が衣食住、生活を保障する「生活保護特区」(俗称マントラアーヤ)を制定すること。2018年、トーキョーの中流家庭で育った高校生のフーカは、落ちこぼれながらも平凡な日常を送っていた。ところがある日、彼女の元に「特区通知」が届く。

この作品は色々な読み方ができる。現実社会のメタファーとしてのディストピアものとして、不器用な人々が共同生活を通して人間関係を築いていくヒューマンドラマとして、本作はそのどちらを想定して読んでも十分なクオリティを備えている。しかし、それ以上のものを秘めている予感もする。

正直に言って、まだ私には本作のことがよくわからない。しかし、ただのディストピアものでないことは確かだろう。「出よ」と現状からの脱却を謳うタイトルに比して、漫画の登場人物たちがすっかりこのディストピアに慣れきってしまっている。では、ディストピアでの日常生活こそがこの漫画の主題だろうか、それも間違いではないが不十分だと感じる。「生活保護特区」というフィクションを通して、その地域に根差した文化や歴史にまでこの作品は描こうとしているようだ。作者が何を描きたいのか、今一番興味が持てる漫画である。

 

文野 紋 『ミューズの真髄』

高円寺に住み、美術予備校に通い出した美優。母の呪縛から抜け出し、もう一度絵を描き、龍円への恋心も自覚し、幸せの絶頂にいた美優だったが……。美術の神様に焦がれ、魅せられた歪な一方通行の愛の行方は……?

美大に落ちて社会に出た女性が、もう一度美術予備校に入り直して夢を追いかける話。「仕事を辞めて美大の夢を追いかける」「母親の呪縛から逃れて新しい生活の中で新しい恋をする」、こう言えば前向きで明るい漫画だと思うかもしれない。しかし、実際にそれを期待して読みはじめたら肩透かし食らうことだろう。夢を追いかけて成長の坂道を駆け上がるのではなくて、夢を追いかけたら空振りして泥沼にはまり坂道を転げ落ちる、そんな漫画が読みたい人はぜひ読んで。

 

山口貴由 『劇光仮面』

29歳の青年、実相寺二矢はアルバイトで日々を暮らしていた。彼には、大学時代に特撮サークル「特美研(特撮美術研究会)」に所属し、仲間たちと「理想の特撮」を追求していた。「劇光」とは何か、彼はなぜ「人斬り実相寺」と呼ばれるようになったのか。……特美研の過去と現在について彼らは語る。

山口貴由は過去作品においても常に”ヒーローとは何か”という問いに向き合い続けてきた。今回は「特撮」を題材にとり、「特美服(特撮スーツ)」を纏うものは本当のヒーローになれるのか、あるいはヒーローとはそもそも何なのか、実相寺たちの姿を通して読者に投げかけている。また、偽史の体をとっているが、特撮技術が過去の戦争から生まれている事実からも目をそらしていない。ヒーロー漫画としては、ギョッとするほどストイックな作品だ。そもそもこの漫画を”ヒーロー漫画”と形容することが不敬であると感じるほどに。

 

雁 須磨子『ややこしい蜜柑たち』

美人だけど陰気な清見は、ほがらかでモテる初夏しか友達がいない。そんな初夏に新しくできた彼氏を、清見は紹介されることになったのだが、ふとしたきっかけで一線を越えてしまう。

”恋は人を狂わせる”と言えばクリシェになってしまうが、この作品は”狂った人間が恋をする”お話である。女友達とその彼氏を巻き込んだ三角関係のラブストーリーと聞けば、単純明快なストーリーと思われるかもしれない。しかし、そこで渦巻く男と女の、あるいは女と女の感情の奔流は複雑怪奇である。普通の恋愛漫画が読みたい方にはおすすめできない。ややこしいものを、ややこしいまま楽しめる読者にすすめたい。

 

松本次郎『beautiful place』

女子高生・花沢シモンは学校で行われている「挺身活動」に参加する。そんな彼女の教官役をつとめるのはクセの強すぎる同級生・高阪モモコだったーー!

べっちんとまんだら、フリージア、地獄のアリス、女子攻兵……松本次郎がこれまで脈々と描き続けてきた、頭のねじが一本も二本もぶっ飛んだ少女たちが繰り広げるアクション活劇の集大成。おそらく最高傑作かもしれない。血と脂と硝煙の匂いが紙面から湧き上がってくるような濃密な入魂の一作だと思う。

当然、『いちげき』の系譜に属する歴史戦記もの『烈士満』も読むべき作品だ。

 

雷句誠 『金色のガッシュ!! 2 』

金色のガッシュ!!の続編。100名の魔物の子が戦い合う魔界の王を決める戦いが終わったその後・・・魔界の王が決まり、魔界では平和な日々が訪れていた・・・ハズだった!!現在の魔界について、衝撃の事実が明かされる。その絶望の淵で、3名の魔物の子供は賭けに出る。

言わずもがなのサンデー黄金時代を支えたバトルヒーロー漫画の正統続編である。一話を読んで衝撃を受けた。いきなり魔物の子供たちが汚い大人たちによって踏みにじられボコボコにされるところからはじまるのである。読者たちは誰に言われるでもなく自然と「早くヒーローが現れてくれ。誰かこの子供たちを助けてくれ」と祈るように作られているのだ。そして、その読者の祈りが頂点に達したところで”清麿”が颯爽と登場する。最高のヒーローが誕生するには、ヒーローを心の底から求める絶望も必要なのだと改めて気づかされた。

 

きづきあきら+サトウナンキ『恋愛無罪―愛を誓ったはずだよね?―』

不倫、三角関係、婚活アプリ……新しいパートナー関係を提案する背徳恋愛オムニバス!! 

普通とはちょっと違う様々な恋愛模様を収録したオムニバス漫画。とは言っても、どれだけ変態的な恋愛を描けるかで勝負している作品ではない。むしろ、あらすじだけを描いてしまえば「なんだ、どこかで聞いたことある話だ」となってしまうのだが、一人一人のキャラクターの作りこみ、心情描写の緻密さによって読ませる作品になっている。例えば、似たような形式のオムニバス漫画にもんでんあきこ『エロスの種子』があるが、あちらが女性キャラクターが背負っている人生の歴史を描くことによってドラマ性を持たせているのに対して、本作ではほとんどキャラクターの過去は描かれない。特殊な恋愛に溺れていく女性の心情描写の解像度一本で勝負している硬派な恋愛漫画である。

 

Dormicum『少女戎機』

謎の敵「レギオン」の出現によって滅びかけている人間社会、戦場で人類の切り札になっているのは「聖母」と呼ばれる少女の姿をした兵器であった。「聖母」の一人であるリコリスは、過去のトラウマにより戦闘能力を失っていた。

戦うことを仕向けられた少女の物語は、なぜ再生産され続けるのか。どうして人類はそれ求めてしまうのか。その罪深さのどうやって贖えるのか。……それらの答えは知らんけど、僕たちはなぜかその物語から目をそらすことができないのである。

本作は、戦う少女の物語として『最終兵器彼女』などの先行作にも増して悪夢的なゴシック世界が繰り広げられる。具体的には、少女たちに”病み系”のビジュアルを足したところに独自性がある。兵器に作り替えられた少女たちは、そのすべてが”病んでいる”べきだという邪悪な美意識によって本作は貫かれている。今年最も退廃的な漫画として見守っていきたい。

 

武田綾乃, むっしゅ『花は咲く、修羅の如く』

人口六百人の小さな島に住む少女・花奈は、島の子どもたちに向けて朗読会を行うほど朗読が好きだった。花奈の“読み”に人を惹きつける力を感じた瑞希は、自身が部長を務める放送部への入部を誘う――。朗読の技術を学ぶことはもちろん、普通の学校生活も花奈にとっては未体験なことだらけ。放送部のメンバーたちと様々な“はじめて”を経験し、少しずつだけど前に進んでいく。

部活ものは、題材にしている部活が全く知らないものの方がいい。なぜなら主人公と全く同じ目線で漫画の世界に飛び込んでいけるから、実際に主人公の周りには頼りになる先輩がいたり、ライバル視してくる同級生の女の子がいたり、色々な人間関係があって、朗読に関する技術やルールについても知識不足だもちんぷんかんぷん。そんな状態でも主人公はまっすぐ努力して、持ち前の性格の良さで部活内でも認められていくわけで……ここまで聞いたら平凡な部活青春ストーリーじゃないかと思う方もいるかもしれない。しかし、そんな王道ストーリーでも飽きさせないところに凄味がある。

例えば、注目してほしいのがセリフに使われているフォント、この作品では場面によって朗読のフォントを細やかに使わけている。その時々の登場人物たちの感情や演技の良し悪し、それをすべてフォントを変えることで表現しているのだから並大抵のことではない。王道ストーリーだけなくて、それを成立させるテクニックが詰まった良作である。

 

Sal Jiang 『白と黒~Black & White~』

同期のライバルである野心家のふたりの、プライドを賭けた女の戦いは、表面上は穏やかに、裏では時には力ずくでお互いの心と肉体を傷つけ合う。そんな中、無意識のうちに“特別な何か”が芽生えつつあった――。野心、嫉妬、謀略、そして複雑な感情が絡み合うアンビバレントな社会人バトル百合ストーリー!!

「社会人バトル百合ストーリー」という聞いたこともない煽りから察せられる通り、非常にピーキーな百合漫画である。二人の女が社内での出世をかけて争いあううちに、お互いに特別な感情が芽生えていく様子が描かれている。”特別な感情”といってもロマンチックなシーンは少しもなくて、知略で相手を貶めようとするか、肉体的暴力で黙らせようとするか、みたいな展開ばかりである。女という名の二匹の獣が殺しあっているのを見学している感じ。これを百合と呼んでいいのか、未だに判断はつかない。

 

安堂ミキオ『おつれあい』

もなかとのぼる。二人はごく普通に結婚し、ありふれた夫婦生活を送っていた。のぼるが逮捕され、拘留されるまでは… つれあって生きていくために人は何をわかちあえればいいのか。何を大事にしたら人は幸せになれるのか。夫婦、恋人、親子、家族、様々な人間関係がおりなす一筋縄ではいかないヒューマン・グラフィティ!

主人公夫婦が様々な事情を抱えた”おつれあい(夫婦、恋人、親子)”と出会っていく連作漫画。登場する”おつれあい”は、外野の人間からすると「別れた方がいいのでは」「なんでそんな人が好きなの」と言いたくなるような人たちばかりなのだが、そういう人たちの生活に密着していくことで”人と人がつれあうこと”の割り切れない部分が見えてくる構成になっている。その安易な価値判断を挟まないヒューマンドラマは、この作品唯一無二のものである。

 

景山 五月 (著), 梨 (その他) 『コワい話は≠くだけで。』 

編集部からホラー漫画を描くように求められた漫画家、怖い経験をした人の話を聞き取ってホラー漫画として描くことに決まったのだが、怖い話は聞くだけで巻き込まれたくない……

この作品、各話の怪談話の完成度もさることながら、革新的なのは描かれている漫画が作中作であることにある。つまり、この作品はメタホラー漫画、あるいは最近流行りのモキュメンタリーホラー映像のようなものなのである。小説や映画ではよく見られる手法ではあるけれど、漫画においては新規性のある手法に挑戦している意欲作である。

 

たか たけし『住みにごり』

会社を長期休養して久しぶりに実家へと帰ってきた主人公。しかし、実家には35歳無職の兄がいて、どこか不気味な行動を繰り返しており……

笑えばいいのか気味悪がればいいのかわからなくなるギャグ漫画『契れないひと』を連載していた作者が新作を出したと聞いて本屋に駆け込んだ。一読して期待通り、笑いと気味悪さがミックスされた作風はそのままに気味悪さが五割増しになっていた。本作には、人間の中になる気味の悪いモノを見たいという欲求を実感させてくれる効能があるようだ。

本作は、はじまりからして強烈に悪夢的だ。久しぶりに帰省した主人公は、無職の兄が無差別通り魔殺人を犯す悪夢にうなされてしまう。無職の兄はこの作品が抱えるグロテスクさを一心に背負っているように見えるが、本当にグロテスクなのはこの兄を育てた家族という檻の方なのだということが暗に示される。家族という閉ざされた空間は常にグロテスクへと傾斜するに違いない。

 

筒井 いつき『夜嵐にわらう』

生徒からいじめを受ける教師・荻野の前に突如現れ、「先生を助けに来た」と言う不登校の女子生徒・夜嵐。過激な手段も厭わない夜嵐による“教育”で、荻野の2年C組は少しずつ変わりはじめる。しかし、クラスの中心人物・帆足はそれを良しとしなかった。クラスメイトを利用して荻野を傷つけようとする帆足に、荻野と夜嵐は――? 

「復讐と教育の学園クライムサスペンス」と大仰なキャッチコピーをつけているが、気の弱い教師・荻野と、過激な方法で先生を助ける女子生徒の・夜嵐、この二人がが学級崩壊しているクラスを様々な方法で立て直していくというのがメインプロットである。学級崩壊漫画は先行作もたくさんあるので食傷気味ではあるが、本作が特殊なのはイジメっこ側の魅力がしっかり描けていることである。その魅力というのは主人公の女教師からみたイジメっこ女子学生が持つエネルギーの煌めきのことだ。不謹慎で言いづらいことではあるが、サイコパス的なイジメっこはある一面において強烈な人間的な魅力を備えているのだ。

今年には他にも、普通に学校に通っている優等生の女子生徒が、自分は人殺しに罪悪感を抱くこともないサイコパスであることを自覚して大暴れする作品。中村すすむ『私の胎の中の化け物』なども良作だった。

 

tunral 『シロとくじら』

日々自堕落な生活を送る無職ニートの“シロ”。そんな彼の元に、とある事情で姉の息子の“くじら”がやってくる。最初は、幼稚園に通うまだ幼いくじらにとまどいつつも、二人の間には不思議な心地よさが――。

無職ニートイケメン男”シロ”とめちゃくそかわいいショタ”くじら”が突然共同生活をはじめる漫画。イケメンとショタを絡めておけば漫画として絵になるのは当然だが、この作品の優れているところははっきり言って、ショタに対するフェティッシュオブセッションである。幼稚園でうまく感情を言葉にできない”くじら”が友達に噛みついてしまう描写には何とも言えない味がある。まだ感情に言葉が追い付いていない子供と無職ニート、全く違うけれどどこか似ている二人の交流はただただ尊い

 

なか 憲人『とくにある日々』

意外となんでもできる場所な「学校」で起こる、すごいことや普通なことや不思議なことを描いた学園マンガ。

椎木しいと高島黄緑の仲良し高校生二人組が、落ち葉で神経衰弱、紙パック重量対決、カニを見に行くなど、ちょっと変な遊びで学園生活を彩っていく日常漫画。ジャンルとしてはコメディに属する話なのだけれど、優れたコメディであるがゆえに、日常をちょっとしたことで楽しいものにしていく一瞬のきらめきが描かれており、なぜか変に感動してしまう作品になっている。

 

坂本 眞一『#DRCL midnight children』

産業革命で様々な技術開発と経濟発展に沸く、19世紀末。ロシア船デメテル號はヴァルナ港で不氣味な木箱を積み、イギリスを目指し、出港する。しかし、その船内で凄惨な事件が発生し、船はイギリス・ウィットビーの沿岸で座礁事故を起こしてしまう。ウィットビーのパブリックスクールに通うミナ、ルーク、アーサー、ジョー、キンシーの5人は、座礁現場を目撃し…!?

怪奇ホラー文学の傑作『吸血鬼ドラキュラ』を坂本眞一が翻案した作品。坂本眞一の耽美的な細密画が理解不能なレベルに達しているのはもちろんのこと、原作のテイストをふんわりと香る程度に残しつつ主人公が怪異と戦うためにランカシャーレスリングを使用したり、とにかくハチャメチャですさまじい作品になっている。

 

とある アラ子『ブスなんて言わないで』

「ブス」と言われ、学生時代にいじめられていた知子。大人になった彼女は、自分をいじめていた“美人”の同級生・梨花が美容家として成功していることを知り、怒りに震える。知子は、梨花への復讐を決意する――。

ルッキズムという言葉が世の中に浸透する前から、ずっと少女漫画はそれをテーマにしてきたわけだけれど、そういう過去の名作があるがゆえに見逃されてきたブスの苦悩というものもあったと思う。一度、世の中の文脈とかすべてを無視して、ゼロからルッキズムについて向き合っている漫画だと感じた。

 

浄土るる 『ヘブンの天秤』

ここは天使達が住む世界・ヘブン。今日も天使達が、神と人間を繋ぐため奔放している。そんな中、主人公・メロは天使鑑定で堕天使という結果が出てしまう。しかし、メロの額には「神に仕える者の証」である刻印が記されたまま。そこでメロは天使長の命により、人間を20人救うことに。20人救えば、きっと天使に戻れるはず・・・

いじめのはびこる地獄のような現世や、死んでもいい命を作り出し弄ぶディストピア社会を描き、問題作を世に発表し続けてきた作者が、ついに現世を飛び出して天国から俯瞰してこの世の本当の歪みに迫る。本当に迫れるかはわからないが、浄土るるがやらねば誰がやる。頑張ってほしい。

 

つばな『誰何Suika

失恋したり、自身を失ったり、消えてしまいたいと考えるようになると本当に体が《消失》してしまう奇妙な現象がみられる世界。主人公で高校生の姫あやかは、消失した人たちを取り戻すためアイドル部を作ることになる。アイドル活動は成功するのか、消失した人々は戻ってくるのか? 謎が謎を呼ぶ。

作者はこれまでも、少し不思議な世界の中で様々な困難に立ち向かう少女たちを描いてきた。今回は人間の消失現象という謎があるものの、基本となるのはアイドル部活ものでかわいらしいお話が続く。しかし、アイドル部の活動に反対する保護者会が出てきたところで雲行きが怪しくなってくる。世界の亀裂から隠れていたグロテスクな世界が少し見えたようなところで一巻が終了する。今はほのぼの漫画の皮をかぶっているが、いつシリアス漫画に加速しはじめるのか、見届けたいと思う。

 

額縁あいこ『リトルホーン~異世界勇者と村娘~』

「狭き大陸」を恐怖に陥れた『魔王』が、異世界から来た勇者のチート技によって倒された。勇者に憧れる村娘のルカとリトルは、魔物に襲われたところを勇者ご一行に助けてもらう。村人が勇者を称え歓迎する中、勇者の取った行動がルカとリトルの未来を激変させ、異世界冒険バトルの扉が開くーー!

勇者たちによって村人を皆殺しにされた村人と魔王が組んで、勇者たちへの復讐を決意する話。異世界に転生して超能力を与えられた勇者たちが、その能力のせいで人間性を失っていくところに新規性と魅力がある。今最も熱い異世界転生漫画かもしれん。

 

井上 まち『東京ふたり暮らし』

ユウとサチは就職のため徳島から上京したばかりのカップル。初めての東京、初めての同棲。ふたりで暮らしたら毎日はこんなに楽しい!

モーニングショート漫画大賞で大賞&あらゐけいいち賞をW受賞した作者の連載作である。一言で言えば、カップルの掛け合いが軽妙で面白い漫画、それ以上でもそれ以下でもない。このように言うと貶しているように聞こえるだろうか。しかし、もちろん私にそのような意図はない。掛け合いが軽妙で面白いというだけで一つの作品として成立しているのが驚異的なことなのだ。過剰だったり奇妙だったりはしない、ただ軽妙で面白い漫画。なにか名人芸を見ているかのようだ。

あらゐけいいち賞ということで、あらゐけいいち『雨宮さん』も良作だった。”フェティシズムモンスター”を自認する雨宮さんが、奇妙な島での生活の中で自分のフェティッシュな”好き”を発見していく様子がコミカルに描かれている。

 

成瀬 乙彦『桃太郎殺し太郎』

無敵の桃太郎を殺したのは人間の童だった。戦の主導権を巡って争う人間たち。"桃太郎殺し"を仲間として受け入れるか意見が割れる鬼たち。様々な思惑が入り乱れる中、人間と鬼の決戦が迫る…。

鬼を殺す宿命を背負った”桃太郎一族”と、桃太郎を殺すために鬼とともに戦う”桃太郎殺し太郎”、この二勢力が入り混じって殺しあうバトル漫画である。山田風太郎のような異能バトルものを考えてもらえればいい。この漫画が最高なのは、両陣営にもまともな人間はおらず戦狂いのヤバいやつしか登場しないことだ。まともな人間は一番最初に死ぬ徹底ぶりである。「武士道は死狂ひなり」という精神を受け継いでいる漫画である。

 

モクモク れん『光が死んだ夏』

田舎で暮らす幼馴染の、よしきと光。しかし、光はその中身が得体のしれない化け物に入れ替わっていた。それでも、一緒にいたいと願う少年たちはどこに向かうのか。

濃厚な夏の気配と、人間の理解の及ばない怪異の存在。こってりとしたエロティック・ホラーの秀作である。今エロティックと言ったが、身体的な恐怖を伴う感情は常にどこかエロティックなものであるし、ホラー映画通らしい作者がホラー表現の中に肉体的な接触の不快さを盛り込んでくるのは全く持って正しい。もしかすると、本作がJホラーの正統進化系なのかもしれない。

 

井上まい『大丈夫倶楽部』

日々「大丈夫の研鑽(けんさん)」に励む花田もねは、ある晩、芦川(あしかわ)という謎の生物と出会う。その姿は「大丈夫ではない」ようで――。心癒されるハートフルストーリー!

”日々「大丈夫の研鑽(けんさん)」に励む”というあらすじからも察せられるが、これは恒常的に大丈夫じゃなくなる人たちの話である。大丈夫じゃないけど、なんとか大丈夫になるよう工夫して生きていくのは人間の本質なので、人間の本質を漫画にされたらランキングには入れざるを得ない。

 

高橋聖一 『われわれは地球人だ!』

忙しくて帰ってこない両親に反抗する火乃子、言葉に棘があり学校では孤独な弓、友達は多いが両親の関係が冷め切っている未々美。女子高生3人を乗せたまま突如轟音と共に巨大ショッピングモールが前触れもなく宇宙へと飛び立った。

いわゆるSF(すこし・ふしぎ)。そこに青春冒険もののワクワク感が加わって最強の物語になっている。一話から丁寧に登場人物の精神的背景が描かれており、読者は突飛な展開にも振り落とされることなく、しっかりと感情移入しながら読むことができる。

 

日々曜 『スカライティ』

人類文明が滅びてしまった世界で、ひとり旅を続けるロボット・アルス。彼の目的は死すことのできなかった人間たちを“殺す”こと。

公式の紹介文ではディストピアと書かれているが、一巻を読む限りではポスト・アポカリプスものでありディストピア要素は薄いように感じる。

少女終末旅行』以降、終末を舞台にした漫画は増えているが、それらの中でも作者独自の味が出ている作品である。終末後に不老不死になってしまった人間を殺すことを使命にしたロボットが主人公となっている。終末期の人類を看取るロボットというのはSFにおいて古典的なテーマではあるが、不老不死の人間を殺す方法が本人を満足させて未練をなくすこととなっているのが本作の工夫である。この設定のおかげで、人間たちは自身の人生の仕事に打ち込んで満足して死んでいくことができる。読後が爽やかな、人間が持つ情熱や執着についてのドラマになっている。

 

 

今年完結した作品

 

平方イコルスンスペシャル』

ヘルメットを被った怪力女子高生と一風変わったクラスメイトたちの、普通じゃないけど普通のスクールライフ。だったはずなのに… 喜劇の“外側”に巧妙に隠蔽されてきた黙示録的世界は、誰も気付かぬほどゆるやかに日々を侵食していく。

本作は”究極の日常漫画”である。日常には、ミステリ小説のように回収される伏線はないし、ゲームのように選択肢も示されない。そこには少女たちが生きた日常のみが描かれている。謎解きがなされないからこそ、どんなに残虐な事件が起こっても、それは日常の一部にすぎないのだ。現実の日常の捉えどころのなさをそのまま漫画にしたと言ってもいいだろう。

最後に、タイトルの《スペシャル》とは何を意味するのか考えてみたい。それは日常の中に紛れ込んだ怪力女子高生のことを指しているように最初は見える。しかし、最終巻の表紙を見れば違う答えも浮かんでくるのではないだろうか。平穏な日常を生きることが叶わない怪力女子高生にとって、何が《スペシャル》だったのか雄弁に語っている。

 

熊倉献『ブランクスペース』

女子高生の狛江ショーコは、同級生の片桐スイが不思議な力を持っていることを知る。暴走するスイの『空白』を巡って、ショーコは奔走する。

少女の抱える孤独と暴力性を”空白”という言葉を使って描かないことで表現した手腕はお見事。リー・ワネル監督が映画『透明人間』において何も映さないことで新しい恐怖を描いたことが記憶に新しいが、本作は絵と言葉によってそれを達成したと言えるだろう。想像力で傷つけられた人間は、結局想像力によってしか癒されないことを示したラストも感動的で力強い。

 

宮崎夏次系『あなたはブンちゃんの恋』

ブンちゃんは、ずっと前から、三舟さんに恋をしている。でも三舟さんはシモジのことばかり見ている。一方、シモジは中学の時に事故死して以来、幽霊となり、ずっとブンちゃんのそばにいて彼女を見守り続けている。女×女×幽霊のラブストーリー。

作者は、常に何かに執着する人間、捨てられない人間を描いてきた。特に初期作品では、家族というものを通してその枠組みの中で壊れていく人間を繰り返し描いた。今回は家族よりもある意味で厄介な”恋”について、それも片思いの三角関係(女×女×幽霊)についての漫画である。この三角関係は、当たり前のようにお互いを傷つけ壊していくことになる。しかし、ブンちゃんはこの恋でどれだけ傷ついても、それを捨てることはできないのだ。何かを捨てられずに壊れていく人間は恐ろしくて美しい。しかし、ただただ人間が壊れていくだけの漫画ではない。恋を捨てなかったことに対するご褒美も、この漫画では描かれている。

 

魚豊『チ。―地球の運動について―』

「地動説」出版を目前に、審問官達に追い詰められつつも仲間の犠牲により包囲網を抜け出せたドゥラカとシュミット。しかしノヴァクが迫りくる!!一縷の望みを懸け、ドゥラカ達が向かう先とは。「真理」に命を懸けた者達の、そして「地動説」の結末は!?動かせ。歴史を、心を、運命を、――星を。

歴史漫画のふりをした何か。結局のところ、この漫画は”歴史”を描いたものでも、”地動説”を描いたものでもなかった。ただ何かを探究したいという人間の強烈な意志、そして意志がなす強靭な営為、それ以外のことはこの漫画では表現されていなかったのだ。魚豊は『ひゃくえむ。』の頃から何も描きたいことが変わっていない。それはたぶん素晴らしいことだと思う。

 

タイザン5『タコピーの原罪』

地球にハッピーを広めるため降り立ったハッピー星人・タコピー。助けてくれた少女・しずかの笑顔を取り戻すため奔走するが、少女を取り巻く環境は壮絶。無垢なタコピーには想像がつかないものだった。ただ笑って欲しかったタコピーが犯す罪とは…!?

ドラえもん的救済の失敗を描いた問題作。特に目を引いたのは、毎週先が読めない超展開の数々と、物語の裏テーマとでも言うべき毒親問題だった。しかし、毒親から距離をおいてシスターフッドで支えあうことが解決になっているだろうか。少なくとも、元の世界よりはベターな世界になったことは間違いないが、しかし……と考えてしまう。

タイザン5の新連載『一ノ瀬家の大罪』は本作で描かれたテーマをより深めるものとなるかもしれない。主人公の少年が毒親も含めた家族の闇を救い。真の家族の再生を行う漫画になることを期待する。

 

 

全1巻長編漫画

 

秋60『同じ所で眠るまで待って』

幼い頃、複雑な家庭環境にいたリアは、公園で出会った祥子の一言に救われ、それ以来ずっと彼女を忘れられずにいた。数年後、編入した学校で祥子と再会を果たすが、祥子はリアのことを覚えておらず、その瞳からは光が消えていた。突き放されながらも優しさを感じたリアはめげずに祥子を追いかけるが、次第に彼女が抱える闇に触れ……? 

心に深い傷を負った二人の少女が出会い、お互いの傷を癒しながらかけがえのない存在になっていく話。感想を描こうとするとどうしても凡庸な表現になってしまうのだけれど、生々しい感情が描かれた少女小説のような漫画だった。漫画としてはまだまだ荒い印象を受けるが、刺さる人にはとことん刺さる内容だと思う。

 

小日向まるこ『あかり』

妻と死別し、生きる意味を見失った老ステンドグラス作家篝のもとに、生き別れた孫のあかりが訪ねてくる。ふたりはステンドグラスの制作を通じて心を通わせていくがーー。

ちょっとした勘違いから生まれた出会いによって救われていく人間模様を描いた作品。安易な奇跡に頼ることのない、現実を受け入れた先にある心の救い。表紙からも見て取れるように、雪の降り積もった町と温かいステンドグラスのあかりが象徴的に機能していて、情景と心情がクロスする漫画表現が巧みである。

 

ダム穴『うついくん、』

刺青の彫師になりたいという夢を持つ、男子高校生の宇津井静。たまたまその秘密を知ってしまった、クラスメイトの女子校生、福永幸。二人は卒業後も遠距離恋愛を続けるが、彫師として働きはじめた静がどんどん有名になっていくにしたがって、二人の歯車は狂っていく。

この作品の最大の特徴は、元が「がるまに(女性向け同人エロ漫画の販売サイト)」で刊行されたものを再編集した作品であるということである。「がるまに」とは何かについて語りだすと2万字ぐらい必要なので、今まであった既存の女性向け漫画(少女漫画、TL、BLなど)とは全く別の文脈からここ数年で拡大急成長を遂げているジャンルだということだけ認識してほしい。漫画表現などにいつか突然変異をもたらすかもしれない新しいジャンルなので取り上げた。

 

 

短編集

 

玉置勉強玉置勉強短編集 ザ・ドラッグス・ドント・ワーク』

バンドを辞め、入院する父親と愛猫の面倒を見ながら工場で働く真吾。生活を変えようと考えるが、希薄な生きていきたいという感情に熱は入らない。身近な何か、いつも逃し失ってしまうもの。先にあるものはやはり行き止まりなのか。

青春漫画というには、春のようなみずみずしい活力はない。それは当然で、これは世捨て人の青春漫画なのである。夢も希望もない、ただただ痛みを抱えながらグズグズと腐って生きていくような青春が読みたい人におすすめ。

 

高江洲 弥『リボンと棘 高江洲弥作品集』

女子高校生が恋をしたのは、いつもタートルネックを着てる先生でした。話題作『タートルネックと先生と』を収録。美しい描線で描かれる、キュートで、グロテスクな物語。

キュートで、グロテスクという形容は正しくて、江戸川乱歩の変態心理小説を少女漫画の描線で描いたような作品集になっている。この作者が特別なのは、一対一の恋愛にこだわっていないところだ。収録作の多く(「洋裁店の蝶」「タートルネックと先生と」「のぞき穴」など)は二人きりの関係に全く予想されていない第三者からいるからこそ化学反応を起こすように描かれている。特殊な目線で恋愛を描ける稀有な作家である。

 

もぐこん『推しの肌が荒れた~もぐこん作品集~』

地下アイドル「真鈴ちゃん」のファンイラストがSNSでバズったマユ。マユが絵を投稿するたびに真鈴ちゃんの人気は上がっていく。しかし、日に日に悪化する真鈴ちゃんの肌荒れを正確に再現してしまうマユに、だんだんアンチコメントも増えていく。そんななか突如真鈴ちゃんが芸能界引退を発表する――。

自分の一番外側にあって世界や他者との最初の接点でもある”皮膚”を題材にとった「あつい皮膚」「推しの肌が荒れた」、裸体のデッサンを通して生まれた禁断の恋を描いた「裸のマオ」など、作者独特の肉体感覚を通して世界を描くことに成功している。

 

小骨トモ『神様お願い』

「神様、神様、学校を燃やしてください。それが無理なら……」学校と体育が死ぬほど嫌いだったすべてのみんなたちへ贈る小骨トモ初めての単行本。

前の作品が乾いた肌ならば、こちらは湿った肌についての作品だ。この作者も肉体感覚を通して、この世界を切り取ろうとしているのは明らかだ。じんわりと汗で湿った肌や、性欲に振り回される汚れた身体を通して、鬱々としてどこか狂った世界を表現している。

 

岡田 索雲『ようきなやつら』

子供ができないことで悩むかまいたちの夫婦、家族の中で一人だけ容姿が似てない河童の子供、引きこもりになってしまった猫又などなど、個性的な妖怪たちの短編集。

妖怪というものがただの化物ではなく、人間の営みのメタファーとして生まれたキャラクターたちであること(諸説あるが、私はそう思っている)に思い至ってみれば、妖怪たちが人間と同じように悩み苦しむ姿を描くのは正しいことように思える。むしろ、妖怪という姿を通してでなければ描けない生の人間の苦しみをよく描いてくれたと喝采もあげたい。

本作が漫画作品として持つパロディの豊かさについては以下の記事が参考になると思う。

proxia.hateblo.jp

 

谷口菜津子『うちらきっとズッ友 ―谷口菜津子短編集―』

噂の転校生と夢見がちな少女、見栄と性欲に振り回される高校生、子育てを終えた女たち…。「第26回 手塚治虫文化賞」新生賞の谷口菜津子が描く、6つの"友情"をめぐる物語。

タイトル通りに長い月日を越えて続く様々な友情の形を描いた連作短編集。”ズッ友”と言われると能天気で軽薄なノリだと思うかもしれないが、もっと地に足についたリアルな友情に関するドラマを描いている。世代や性別もジェンダーもばらばらな友情をさらりと描けてしまう、作者の手数の多さには驚くしかない。

 

 

その他(ネット読み切り・エッセイ・復刊など)

 

川島のりかず 『フランケンシュタインの男』

都市生活に疲れたサラリーマンが、心療内科で少年時代を思い出す 「フランケンシュタインの怪物」にご執心のお嬢さんと、禁じられた遊びに興じて… フランケン!フランケン!の怒号とともになだれ込むクライマックスは必見!!

ひばり書房のホラー漫画家の中でも再評価めざましい川島のりかず、その傑作がまさかの復刊である。私も川島のりかず作品は数作だけもっているが(作品数が多いうえにどれもプレミアがついているので手が出しづらい)、中でも傑作と評判を聞く本作が本当に傑作であることを自分の目で確かめられてとても嬉しかった。

タイトルからはB級ホラー感が漂うが、ところがどっこい本作は上質なサイコ・スリラーで、怪物が生まれるきっかけを描く過去パートは恐怖と郷愁を誘う素晴らしい出来栄えである。しかも、ラストには妄想が現実を打ち負かすような怒涛の展開が待っていて感動すら覚える。もっと復刊を望む!

 

山野一『大難産』

50歳目前で双子を授かった元・鬼畜漫画家の、超大変&ドラマティックな出産・育児コミック。

どこか飄々とした視点で鬼畜漫画を描いてきた山野一が、50歳になってまた飄々と自身の子供の出産に立ち会うというお話。出産という行為の恐ろしさも面白さも清濁併せのんで、なんてことはないように描けてしまうのは流石と言う他ない。

鬼畜つながりで、鬼畜リョナ漫画家の氏賀Y太『ウツロボロス』でホラー漫画の意外な才能を発揮していたのが印象的だった。

 

林快彦『絵に描いた餅を描いた餅』

ジャンプ読み切りとして前人未到の完成度を持った作品。金未来杯の作品だから連載して面白くなるのかということは問われるだろうけれど、そんなものは関係ないぐらいに、この読み切り一作で歴史に残る大傑作だと思う。僕は想像力が人間を救う話にめっぽう弱いんです。

 

たばよう『しいく委員のおしごと』

”ひとでなし”のお話ですね。ひとでなしには、ひとでなしの漫画が必要なんです。

comic-walker.com

 

 

 

最後に、面白かったけどランクインさせられなかった作品を一言コメントをつけて並べておきます。

 

 

今年1巻が刊行された継続作品

 

リバイアサン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

シチュエーションスリラーとしてよく練られている。今後の展開しだいでは傑作に化けるかも。

 

おねぇちゃん日和 1 (MFC キューンシリーズ)

仲良し姉妹の日常コメディ。こういうのでいいんだよ、こういうので。

 

城の魚 2 (PASH! コミックス) 

最近増えてきた美術予備校漫画。美術漫画にありがちな奇人変人をだして盛り上げるのではなくて、美術を競技のようにとらえて成長しようとする主人公が新鮮な読み味を出している。

 

超音速の魔女 1 (楽園コミックス)

飛行機技術が確立されていない1900年頃の世界で、飛行機開発に燃える少年と魔女の冒険譚。科学と魔術のあざやかな融合は、あさりよしとおの独壇場である。

 

けむたい姉とずるい妹(3) (Kissコミックス)

歪な姉妹の三角関係恋愛漫画。長い時間の中で澱のように溜まったどうしようもない感情を描かせたら、ばったん先生はどうしてこんなにもウマいのでしょう。

 

神さまがまちガえる(1) (電撃コミックスNEXT)

ビバリウムで朝食を 1 (チャンピオンREDコミックス)

バグった世界と不思議なお姉さん。それがあれば他に何もいらないですよね。

 

僕の彼女は僕のことが好きじゃない 上【イラスト特典付】 (REXコミックス)

寝取られ漫画というか、なんというか。異常な漫画であることは間違いない。下巻に期待。

 

くだんのピストル 参 (角川コミックス・エース)

ケモキャラで幕末をやるだけで優勝です。

 

空っぽの少女と虹のかけら 1巻 (マッグガーデンコミックスBeat'sシリーズ)

世界に絶望している”空っぽの少女”が、異形の跋扈する異世界に飛ばされるダークファンタジー。世界観はすばらしいので今後に期待。

 

インク色の欲を吐く 1 (HARTA COMIX)

ビアズリーを題材にとった伝奇漫画。退廃的な雰囲気は題材に負けていない。

 

黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ(2) (モーニングコミックス)

メアリー・シェリーのミステリアスさを損なわずに、これだけキュートに描けるのは藤田先生しかいないですね。

 

クロウマン(3) (ヤンマガKCスペシャル)

ダークなアクション漫画。性癖には刺さりまくった作品だったが、とりあえず最終巻を見守りたい。

 

モモ艦長の秘密基地 1 (楽園コミックス)

裸女と猫と宇宙……鶴田謙二にそれを描かれたらもうお手上げです。

 

カラフルグレー 1【電子版限定特典付き】 (MeDu COMICS)

極彩色なホラーコメディ。こういう漫画はいくらあっても困りませんからね。

 

君に会いたい 1巻 (バンチコミックス)

売野機子が真正面から本格ファンタジーを描いたという驚き。10巻ぐらい続いてほしい。

 

音盤紀行 1 (青騎士コミックス)

レコードへの愛着のみで語られがちな作品だけど、単純にストーリーテリングも優れている。

 

追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。 ~俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?~(1) (月刊少年マガジンコミックス)

今年連載がはじまった漫画の中で、最も規格外のギャグセンスを示した意外作。

 

クジャクのダンス、誰が見た?(1) (Kissコミックス)

エリザベス・フェラーズ『ひよこはなぜ道を渡る』みたいに、タイトルの問いかけが作中の事件に対する問いかけにもなっているミステリが大好物なんです。

 

カオスゲーム(1) (アフタヌーンコミックス)

令和にもなって、ごりごりに昭和なノリのオカルトサスペンスがはじまってびっくらこいた。断然支持します。

 

夢てふものは頼みそめてき Daydream Believers(1) (モーニングコミックス)

ジャズの次はまさかの浮世絵。一巻を読んだだけで、すでに全キャラに愛着が沸いてしまった。

 

この子知りませんか? 1

一巻の終わりで、ちょっとしたサプライズがあって続きが気になる作品です。

 


今年完結した作品

 

すぐに溶けちゃうヒョータくん(2) (webアクション)

DV彼女目線で氷人間との生活を描いた稀有なラブコメ漫画。

 

あそびあそばせ 15 (ヤングアニマルコミックス)

ハイテンションガールズ・コメディ大団円。お疲れ様でした。最後の方は、先輩世代の激重感情百合が繰り広げられていたのが印象的だった。

 

ワールド イズ ダンシング(6) (モーニングコミックス)

最終回で主人公が踊る舞が前衛的すぎて作中でも賛否両論のまま終わるのは、ある意味でこの漫画らしいのかも。真面目過ぎる。

 

ビターエンドロール(3) (アフタヌーンコミックス)

基本的に毎回似たような話が続くので終わってしまったのは理解できるけど、社会からこぼれ落ちて諦めてしまっている人間を描写する力量はすさまじかった。すごく好きな作品。

 


全1巻長編漫画

 

黄色い耳(((胎教))) (LEED Café comics)

とんでもない奇想ホラー。黄島点心作品のほとんどすべてが、とんでもない奇想ホラーですけど。

 

夜の大人、朝の子ども (幻冬舎単行本)

今日マチ子と一緒に人生のリハビリをするような読み心地。人生の失敗とそこから立ち直っていくことを真摯に描いた作品。

 


短編集

 

山口つばさ短編集 ヌードモデル (アフタヌーンコミックス)

表題作は『ブルーピリオド』の系譜にある話だが、他の話はまた別方向のフェティッシュを爆発させていて面白い。

 

かわいそうなミーナ (ビームコミックス)

古典的なゴシック幽霊物語を漫画で成立させている。新規性はないが、手堅い出来栄え。

 

過去が殺しにやって来る 小池ノクトホラー短編集 (ヤングキングコミックス)

タイトルの通り、過去のちょっとしたことが恐ろしい理不尽になって襲ってくるホラー漫画。不条理ホラーが好きなら面白いかも。

 

模型の町 (楽園コミックス)

今回は”町”をテーマに、相変わらずの傑作。どうしてpanpanyaの手にかかると知らない町にも郷愁を感じるのだろうか。

 

スターイーター 模造クリスタル作品集

メランコリーな少女を描かせたら模造クリスタルは世界NO.1、そんなことは常識です。

 

星をつくる兵器と満天の星 ~中村朝 連作集 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)

生体兵器を利用することが当たり前になった世界を描くSF連作漫画。SF的なアイデアに新規性はないけど、その世界に入り込んで描くことができている。

 

そことかしこ(1) (熱帯COMICS)

セリフのないショートショート漫画集。描線によって深い詩情を表現する確かな技量。

 


その他(ネット読み切り・エッセイ・復刊など)

 

呪詛 封印版 (怪と幽COMICS)

人間の業(カルマ)がギュッとこの一冊に凝縮されている。