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雑文置き場

昨年(2022年)のすごかった漫画を振り返る

あけましておめでとうございます!

「【2022年度版】すごかった漫画」で取り上げた作品を振り返ります。

作品の掲載順は面白かった順に並べています。つまり、一番最初に載っている作品が一番面白かったというわけです。ですので、一年前と比べて掲載順が色々変わっております。

 

msknmr.hatenablog.com

 

ちなみに、「【2023年度版】すごかった漫画」も鋭意作成中です。

少々お待ちを。

 

 

山口貴由 『劇光仮面』

衛府の七忍』『シグルイ』では時代劇だったり、『覚悟のススメ』『エクゾスカル零』ではポストアポカリプスだったり、特殊な舞台背景があるからこそ山口貴由キャラは成立していたはずなのだが、本作では当たり前に特撮オタクとして現代日本を闊歩している。異常な信念と覚悟を持った人間が現代日本を何食わぬ顔で歩いている。怖い。「でも、特撮ヒーローってそういうものだよね」と言われてみれば、その通りなんだよなぁ。もしかしたら特撮の核心に迫っている作品なのかもしれない。

 

 

 

雷句誠 『金色のガッシュ!! 2 』

もうずっと面白い!すごい!!脳みそが溶ける!!

過去の有名作の続編なので、ほとんどの読者にとってお馴染みのキャラが成長した姿で再登場する。昔とは全く違う姿になっていて驚かされることはあっても、違和感を感じさせられることはないのが何気にすごい。それだけ雷句先生の中に確固たるキャラクターが生きているということなのだろう。

 

 

 

まどめクレテック『生活保護特区を出よ。』

第三巻では、「生活保護特区」独自のお祭り「日の出祭り」の様子が中心に描かれる。現代日本からみると全く異質な独自の習俗を描き切った作者の力量はすごい。世の中には本当にこんなお祭りがあるのではないかと思わせる。今一番、なにかとんでもない作品が描かれつつあるのではないだろうかという高揚感を感じる漫画作品である。

 

 

 

【完結】文野 紋 『ミューズの真髄』

三巻という少ない巻数ながら堂々完結。「美大に入ってアートで成功しようとする美術漫画」にも「人生をリセットして新しい恋に向かう新生活漫画」にもなりそうでならない、「何も成し遂げられない」をなそうとするのが本作である。非常に独特な語り口の漫画だった。

別の言い方をしてみれば、主人公が新しい生活への挑戦を通して”何を得るのか”ではなくて”何を捨てられないのか”を描いた作品と言えるかもしれない。”何を得るのか”ばかり語りたがる世の中に辟易したところがったので、個人的には胸のすくような思いがあった。

文野紋先生は、ホラー漫画の作画もはじめたようなので今後の活躍にさらなる注目したい。

 

 

 

雁 須磨子『ややこしい蜜柑たち』

「これはラブストーリーというより、もはやホラーなのではないか」と思うほどに、読んでいると背筋がゾクゾクしてくる。静かに狂っているとしか思えない主人公は、ホラー映画に登場する化け物を見ているような気さえしてくる。

新キャラの不知火明も面白い。彼はいわゆる恋愛強者というか、気になった女性を攻略していくことに喜びを感じるタイプの人間である。そんな彼が、主人公に振り回されていく姿を読んでいると、「これはラブストーリーというよりギャグなのではないか」とも思えてくる。

 

 

 

【完結】額縁あいこ『リトルホーン~異世界勇者と村娘~』

今年最も連載終了が哀しかったで賞受賞。

悪逆な勇者一行に反旗を翻し立ち向かう魔族と村娘。異世界転生チートで世界を救うような既存のなろう作品に対する、強烈な皮肉と露悪で作られた物語である。しかも、その皮肉や露悪はただそのまま導入されただけではなくて、しっかりとキャラの背景を豊かにすることに貢献しているところにうならされる。

これを打ち切ったのは人類の損失だったけど、すぐに作者の新連載がはじまったので、気持ちを切り替えてそちらを応援しよう。二度とこのような悲劇を起こさせないために。

 

 

 

なか 憲人『とくにある日々』

最初はただの日常コメディ漫画だったのだが、巻数を重ねるごとに少しずつ百合文脈が出てきたところに注目したい。これは個人的な妄想ではなくて、新キャラとして別の百合カップルも出してきたりして、明らかに作者もその辺りを意識して描いている気がする。特に、第三巻収録の35話で描かれた巨大感情がまぶしいほどで、急激に本作は連載中百合漫画のトップに躍り出たと言っていいだろう。

 

 

 

トマトスープ 『天幕のジャードゥーガル』

第一巻を読んだ時点では、歴史の中で女傑が自分の復讐を果たしていく物語なのかと思っていたが、その道からは早々に外されてしまって、最新刊では何に復讐すればいいのかもわからなくなっている。わかりやすい復讐譚ではなく、歴史の圧倒的なうねりの中で翻弄される一人の女性の物語ということなのだろう。主人公・ファーティマの物語という以上に、後宮内で渦巻く様々な女たちの権謀術数が見どころになってきており、予断を許さない作品となっている。

 

 

 

とよ田みのる『これ描いて死ね』

引き続き、まっすぐに面白い作品である。特に、漫研顧問・手島先生の過去話である「ロストワールド」がほろ苦い味もありつつ、そこはかとなくエモい。手島先生の過去話はたいがい掘りつくしてしまった感じがするので、現役世代のさらなる飛躍を見届けたい。

 

 

 

【完結】安堂ミキオ『おつれあい』

高いクオリティーのまま駆け抜けて完結したオムニバス漫画。最終巻では、特に主人公・もなかとのぼるにフォーカスした話が綴られていく。外見からはひょうひょうとしているように見える主人公が、内面に抱えている思いを最後の最後で口にするシーンではホロリとさせられた。本当の気持ちを言葉にして言うことがいかに難しいことか、そんな当たり前に気づかされる。

 

 

 

【完結】冬虫カイコ『みなそこにて』

今最も、孤独と寂しさに寄り添った漫画の描き手が、冬虫カイコ先生だと思う。三巻できっちりまとめきって連載終了を迎えた。ただ、手堅いながらも小さくまとまってしまった感じはある。次回作の連載もはじまっているようなので期待したい。

 

 

 

たか たけし『住みにごり』

連載当初は、不気味さや生理的嫌悪感に特化したホラー漫画なのかと思っていたが、最新刊になると主人公一家の陰につきまとう悪意の正体が見えてくる。いわゆる「ヒトコワ」系のホラーとして伸びてきた。最終回まで突っ走れ。

 

 

 

きづきあきら+サトウナンキ『恋愛無罪―愛を誓ったはずだよね?―』

常に一定以上の面白さは担保されているが、オムニバスなので話ごとの出来不出来が激しい。第二巻の「公平と桃子」の話は傑作だと思う。

 

 

 

井上まい『大丈夫倶楽部』

電子書籍で第5巻まで出ているのだけれど、びっくりするぐらい何も変わらない。キャラが多少増えたりはしているが、主人公が日々の細かな”大丈夫”を見つけていくだけで話は進む。ここまでブレずに変わらない作品は今どき珍しいが、今の世の中にはそういう作品こそ貴重な気がする。

 

 

 

【完結】Sal Jiang 『白と黒~Black & White~』

バリキャリ女の社内紛争百合も完結。唯一無二な作風の百合漫画だったので終わったのは悲しい。特に、まさに”犯す”という感じの激しい百合セックスシーンは独特すぎて印象に残る作品だった。ただ、最終話はこれで終わりなのかという、すっきりしない感じになってしまった。それも味だったとは言えるのだが……。

 

 

 

【完結】成瀬 乙彦『桃太郎殺し太郎』

鬼子vs.桃太郎の全面闘争決着…?最終巻。あまりに唐突で、欲求不満が溜まるような終わり方をしてしまった。ただ、バトルシーンには独特な色気があり、この作者が持っている稀有な才能を感じさせた。次回作に期待。

 

 

 

日々曜 『スカライティ』

ひとりぼっちディストピア紀行、かと思ったら、第二巻にて首切り役人の娘が同行者として加入した。キャラが増えたことで、旅の様子も豊かなものになって、どんどん面白くなっている。『少女終末旅行』以後、雨後の筍のように発生した「週末世界旅行もの」の中でも、キラリと光るものがある。

 

 

 

坂本 眞一『#DRCL midnight children』

怪奇ホラー文学の傑作『吸血鬼ドラキュラ』からの換骨奪胎が相変わらず上手い。好き勝手にアレンジを加えているように見えて、大枠は原作に従っているあたり制御が利いている。ここからは今まで以上にオリジナル展開が追加されそうなので期待する。一番大きな変更である主人公たちを大人から子供に変更したことは、後々どう生かされていくのか、作者の企みに期待する。美麗な絵だけじゃなくてストーリー面にも要注目な作品である。

 

 

 

つばな『誰何Suika

つばな先生が描いているんだから、ただの部活アイドルもので終わるはずもなく。取り返しのつかない出来事が起こってしまう最新刊。取り返しのつかないことが起こってからがつばな先生の本領なので、加速度的に面白さは増している。

 

 

 

武田綾乃, むっしゅ『花は咲く、修羅の如く』

安定した面白さを継続している。部活もののお約束である”大会編”に突入し、登場人物が増えて、群像劇として盛り上がってくる予感がある。

ただし、最新刊の第六巻には思うところもある。部活の先輩である瀬太郎がメインの話となり、引っ込み思案な性格になった原因や、良子と親しくなった経緯が描かれていたわけだが、テンプレの陰キャ描写に見えてしまって、瀬太郎が生きたキャラクターに見えなかった。他のキャラにはしっかりした内面を感じるのに、瀬太郎のバックストーリーはいかにも薄っぺらく感じてしまった。だって、瀬太郎で目隠れ長身のイケメンなのに、自分に自信がなくて美人の幼馴染や部活の後輩女性から慕われてて、それでもうじうじしてたけど周りから励まされて……こんな恵まれたキャラに感情移入することは僕には無理だった。まあ、ノットフォーミーなだけだったと思うので、次巻に期待する。

 

 

 

【完結】筒井 いつき『夜嵐にわらう』

事件の背景がすべて明らかになる最終巻。サスペンスの方面で本作を評価してしまうと、「凡庸」という評価に落ち着かざるを得ないのだが、百合漫画としてみれば妙に湿っぽい雰囲気には独特の味がある。夜嵐の圧倒的存在感を含め、文化祭で謎の神輿を登場させたり、最終局面で教室に鯨幕をかけたり、面白く奇抜な絵面を作ろうという気概を感じた作品でもあった。

 

 

 

モクモク れん『光が死んだ夏』

今いる「ヒカル」が何者なのかを探る展開が続く第四巻。事態を解決しようと暗躍する怪しい霊能力者の存在や、図書館で自分たちのルーツを調べる主人公たちなど、サスペンスホラーとしては真っ当な手順を踏んでいる。ただし、本作にエロティックホラーの可能性を見た私からすると、真っ当であるがゆえに想像を超える展開はなくなって、普通のサスペンスホラー漫画になってしまったなと思うところもある。さらなる飛躍を期待したい。

 

 

 

【完結】井上 まち『東京ふたり暮らし』

最後までゆるゆるした雰囲気を保ったまま、第二巻で完結。こうした日常ギャグ漫画を連載するときは、登場キャラを増やすか、完全な新展開を導入するか、色々な策を打ちたくなると思うのだが、本作はカップルが東京で二人暮らしすることだけに絞って脇目も振らずに完結させたのは潔く格好いい。

読み切り版を読むと、カップルが普通にセックスしてそうな雰囲気を醸し出していることにビックリした。連載版ではあえて性的な匂わせをなくしたんだろうが、この枷を外した漫画の方が正直読んでみたい。

 

 

 

tunral 『シロとくじら』

無職ニートのシロと甥っ子のくじらの、一緒に過ごす淡々とした時間が描かれる。新キャラも増え、今後の展開に期待ではなるが、第二巻を読んでも物語の進む先が見えてこない。次巻が、ただのショタフェチ漫画で終わるかどうかの瀬戸際になりそう。

 

 

 

浄土るる 『ヘブンの天秤』

今のところ、連載作品として終わらせることに注力しすぎていて、作者のいいところが削がれているように思う。話の構造が破綻してもいいから、作者には暴走してほしい。

 

 

 

とある アラ子『ブスなんて言わないで』

正直に言って、最新第三巻の展開に疑問符がついた。本作の勘所は、同じ反・ルッキズムの信念を持っているのに、「ブス」の知子と「美人」の梨花が対立しなければいけないという悲劇的な構造にあるのだと思う。つまり、いくら「美人」に反・ルッキズムを訴えられても、それは結局「ブス」の視点から見れば、「ブス」が「美人」にいいように利用されているようにしか見えないところに葛藤があるはずだ。

ところが、最新刊では知子に対して好意を向けてくる男性が現れて、それにどう対処するかという方向に話が進んでしまっており、個人的には、本作の本筋とあまり関係ないエピソードに思えた。今後の展開しだいでは、本作を見直すかもしれないし、失望がより深まるかもしれない。

 

 

 

Dormicum『少女戎機』

第二巻が出たけれど、話がほとんど進展していない。なぜ話が進まないのか考えたけれど、これは手術台漫画なんだろうなと思うようになった。もうとにかく話が進行することよりも、少女が手術台の上で、腹を掻っ捌かれて手足をもがれた描写だけが続く。作者が話を進めることよりも、そうした絵を描くことの欲望に逆らえていない。良くも悪くもイメージだけが先行しているのだ。でも、そういう漫画は嫌いじゃないです。

 

 

 

【番外】松本次郎『beautiful place』

【番外】高橋聖一 『われわれは地球人だ!』

WEB連載は続いているようだが、単行本化待ちの状況である。

『われわれは地球人だ!』は最終回を迎えたようなので第二巻が最終なのかな。