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雑文置き場

【4月漫画ベスト】川村拓『嘘の子供 1巻』、大武政夫『女子高生除霊師アカネ! 1』など、10作品

今月は憂鬱病で書くのが少し遅れました。

タイトルとか、記事のスタイルを先月から少し変えています。

新作か旧作かにかかわらず、その月に読んだものの中から面白かった漫画を紹介してききます。

 

 

 

 

 

偽家族のなんてことない日常 ――川村拓『嘘の子供 1巻』

幼くして亡くした子供が、そのままの姿で現れたら?それがもしも、化け狸の仕業だったら?再会じゃない。本物じゃない。だけどそれでも――すがりたい。その嘘は、優しくて、悲しい。「事情を知らない転校生がグイグイくる。」の川村拓が贈る、心ゆさぶるヒューマンドラマ。

子供を亡くした若い夫婦が、自分たちの子供に化けた狸と生活をはじめるお話です。描き方を変えればホラーにすることもできる設定ですが、作者独自の優しい視点でほのぼのとした話に仕上げています。幸せな生活が「嘘」であるとわかりきっているだけに、何も起こらない日常が切なく胸に迫る作品です。

 

 

 

 

少女漫画的成長も、少年漫画的成長も受け入れられない ――文野 紋『ミューズの真髄 3』

とにかく私は、今の“私”の方が“私”らしくて好きなんです。

今の自分は“アップデートされている”と信じてやまない美優。
自分の価値観を信じ、自分の審美眼は正しいと思い、芸大受験に臨む。
一方、気持ちがどんどん冷めていく鍋島は……。

美術の神様に焦がれ、魅せられた美優の“真髄”とは。

人生リセット・ストーリー、最終巻。

作者のあとがきによると、「少女漫画的テンプレと少年漫画的テンプレのフラグを両方立てて、それでも何ひとつ上手くできない主人公を描きたい」というコンセプトがあったらしいですが、その狙いは達成されています。まさに、世の中のほとんどの人間は、”少女漫画的”にも”少年漫画的”にも生きることができるわけではなくて、つまり、これは私たちの物語なのです。

 

 

 

 

少年を閉じ込める迷宮は、どこまでも深くて ――峰浪りょう『少年のアビス 12』

黒瀬令児(くろせれいじ)は、家族、教師、幼馴染、アイドル、小説家、そしてこの町。そのすべてに縛られながら“ただ”生きていた。夕子と野添の過去を知った令児。黒瀬家の秘密を知ってしまった柴沢。東京とあの町で――…。少年の生きることに希望はあるのか。この先に光はあるのか。“今”を映し出すワールドエンド・ボーイミーツガール、第十二章――。

表紙に大きく描かれている熱帯魚・ベタの仲間には、ラビリンスフィッシュという別名がありますが、この作品自体にもラビリンス(迷路)のような印象を読者に抱かせます。

ベタの仲間は普通の魚と違って、エラ呼吸だけでなく、空気呼吸をするためのラビリンス器官を持っていることからそう呼ばれているわけです。それは、本当に迷路のような形をした器官で、簡易的に肺のような機能を果たします。ベタは体の中にラビリンス(迷路)を隠しているわけですが、本作の主人公・黒瀬令児も自分の中にある血のつながりという迷路と向き合っているようです。しかし、この迷路の出口は見つかりそうにありません。

 

 

 

 

家から立ち上がる、それぞれの生活 ――井田 千秋『家が好きな人』

「自分の家が、一番好き。」
今日も今日という日が紡がれる。
楽しかった日も、そうじゃない日も
いつでもここはあたたかく包み込んでくれる。
日常に散らばるたくさんの小さな幸せ。

漫画を描くときには、キャラクターがいて、そのあとにキャラクターが暮らしている場所が作られるのが普通だと思います。

この漫画はその逆です。どんな間取りの部屋で、どんな家具や雑貨を置いて、どんな服を着て、どんな朝食を食べているか、それを描いているうちに、その家で暮らす人間のキャラクターが立ち上がってくる、そんな漫画になっています。

 

 

 

 

死ぬまでの家、それでも私たちのお家 ――齋藤なずな『ぼっち死の館』

老いを生き、描く76歳作家の「純」漫画!

舞台は高度経済成長期に建てられた団地。現在そこにはひとり身の老人たちがいつか訪れる孤独死、「ぼっち死」を待ちながら猫たちと暮らしている。
そんな彼女らが明日迎える現実は、どんな物語なのかーーー

自らも団地に暮らす76歳の著者が描く、私たち全員の未来にして、圧倒的現在。
『夕暮れへ』にて日本漫画家協会賞優秀賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門収集賞を受賞した齋藤なずな、渾身の最新作。

ぼっち死、つまり孤独死、を控えた高齢者ばかりが暮らす団地を舞台にした連作短編集です。墓石のように等間隔に並んだ団地で暮らす高齢者たちの姿は、死の気配を漂わせながらも、不思議と生き生きとしています。ややもすれば〈老人〉という属性の中で画一化され描かれがちな人々を、一人の人間として鮮やかに蘇らせる描写力に、ただただ感心させられます。

 

 

 

 

ケッチャムは、僕たちのヒーローだ ーーなぎと『なぎと短編集 隣の家の女装男子

WEBではラフで公開された短編コミックをすべて描き直し、
完全版として生まれ変わった、なぎと先生の初短編集!

WEB版を読んだ人が気になる「最後の一歩」を描いた各話の後日談や、
完全新規の描き下ろし短編も収録。

心を抉る表情に、人の深さを知る――。

主人公の少年は、同級生の女装男子が自ら進んで女装しているのではなく、実は親からの虐待で無理やり女装させられているということを知ります。少年は女装男子を助けたいと思いますが、何もできずに日々は流れていき……。

以上が表題作のあらすじとなりますが、タイトルから察せられる通り、ジャック・ケッチャムによる小説『隣の家の少女』を規範として作られた作品になります。つまり、壊されていく人間を助けられず見ていることしかできない少年の話です。しかも、嫌な後味をより強調する(ある意味で気の利いた)ラストも用意されており、非常に完成度の高い作品です。

 

 

 

 

見ていて気持ちのいい守銭奴 ーー大武政夫『女子高生除霊師アカネ! 1』

東雲茜はちょっぴり金に汚いものの、どこにでもいる普通の女子高生。のはずが、愛人と蒸発した父親に預金を持ち逃げされたことをきっかけに、生活費を稼ぐため父親の跡を継ぎ、除霊師として活動することに! 父親直伝の怪しいテクで、今日も霊を祓いまくる! 当然 霊なんて見えない

金を稼ぐため家業の霊媒師業に精を出す女子高生を描いたギャグ漫画です。主人公のやっていることは、ただの霊感詐欺なのですが、なぜか非常に好感が持てるキャラになっています。生き方に潔さと格好良さのあるクズを描かせると、大武先生の右に出るものはいなさそうです。

 

 

 

 

メンタルの弱い元天才少女 ーー辻島もと『天才魔女の魔力枯れ(1)』

1mmでも図に乗った事がある元天才の君へ

1万年に1人の天才魔女“ナユ”の魔力が枯れた!?

天才ゆえに許されてきたあれやこれのツケが、
今ブーメランのように突き刺さっていく…

そんなナユが助けを求めたのは、
自分のことが大好きな教え子の小麦くん。

だいぶ痛いけどなんだか放って置けない
奇妙な2人の共同生活が始まった!

Twitterで万バズを記録した、
元天才魔女による因果応報ブーメランラブコメディー!

物語は、調子に乗っていた天才魔女の少女が、魔力を失って周りに頼らないと生きていけなくなることからはじまります。そう言うと、特定の性癖に刺さる罪深い作品のように聞こえてしまいますが、表情がコロコロ変わる少女と一緒に暮らしてたら楽しいだろうなという素朴な願望を描いた作品になっています。

元天才魔女の少女が、今まではネガティブな感情を魔法で消していたので、魔力がなくなると不安に苛まれて一人で夜眠ることすらできない、というシーンが好きなのでピックアップしました。

 

 

 

 

時代の流行りから生まれた美しい徒花 ーー鶴淵 けんじ 『meth・e・meth 完全版』

ある日、ごく普通の柚木九太(ゆずき・きゅうた)は、「宣誓術」によって動く人形ーー誓文人形(オートスクロール)に襲われた。
病院で目が覚ますと、「誓文」で動く心臓を移植され、「誓文人間」になってしまっていた!

科学とともにゴーレム技術が発達した現代を舞台に、
「人を人たらしめるものは何か」を問うジュブナイルファンタジー

古代倭国ファンタジー『峠鬼』で熱狂を呼んでいる新鋭・鶴淵けんじの初期連載作。
入手困難となっていた幻の名作が、装いを新たに完全版として再登場!

『峠鬼』で活躍中の作者が、実は過去に『きららフォワード』で連載していたと聞かされればチェックせざるを得ません。

古代日本を舞台にしたファンタジーで才気を爆発させている作者でありますが、本作は現代日本を舞台にしたダークファンタジーになっています。作者自身が、当時は『魔法少女まどか☆マギカ』の影響で、可愛い絵柄でハードな内容の作劇が流行っていたと述懐していることは大変興味深い証言です。時代が求めるものと作者の才能が、ミスマッチを起こしたがゆえに生まれた作品として、ぎこちない愛おしさを感じる作品です。

 

 

 

 

奇想ホラーの新たな担い手――岬かいり『虹色のこいびと』

「温度」が見える少年・勘太と火星人のピコ。恋人を探しに来たというピコに、勘太はだんだんと惹かれていくが…3000万PVを突破した『笑顔の世界』の岬かいりが贈る、新感覚ラブストーリー!

温度がサーモグラフィーのように見える少年のところに、目には見えない透明の宇宙人が訪ねてきたら……。

突拍子もない急展開から、甘々のラブストーリーかとおもっていたら、狂気に飲まれている男のサイコホラーになったり、二転三転する展開が魅力的な作品です。

作者は、もともとちゃおホラーで活躍されていた作家になります。私はそのころからのファンなので、ジャンプで新しい『アウターゾーン』的作品の担い手として活躍されることを期待しています!

 

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