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雑文置き場

3月に読んで面白かった漫画

新作か旧作かにかかわらず、その月に読んだものの中から面白かった漫画を紹介していこうと思います。

 

 

 

 

有馬慎太郎『地球から来たエイリアン(3)』

星を救うミッション。この星の生き物は、地球の常識じゃ測れない。

各部署研修も後半戦。惑星開発省の新人・朝野みどりが出会ったのは、「不老不死の生物」や「一日で餓死する生物」!!
最後の研修先で待ちうけていたのは、大規模汚染を防ぐという難関課題。
頼れる先輩たちとともに、この星の未来を守る過去最大のミッションに取り組む!!
惑星開発お役所コメディ、万感の最終巻!!

惑星開発ののために現地の動物調査に奮闘する新人女性を描いた本作。その面白さは空想上の珍奇な動物の生態を描写することにあったわけだが、最終巻では人間と動物の関係性により深く切り込んでいる。具体的には、動物実験経済動物など、動物が好きな人間であればあるほど簡単に割り切ることができない問題を果敢に扱っており読み応えがある。もう少し続けてほしいテーマだったので、終わってしまったのは寂しい。

 

 

 

田口 囁一『ふたりエスケープ: 4』

〆切に追われる漫画家の「後輩」は、どうにか心をパッと明るくしたい。頼れる相棒の「先輩」(無職)とともに、ときどき担当編集も巻き込みながら今日も全力で現実から逃避する!

〆切に追われる漫画家が居候無職の先輩と仕事から現実逃避する様子を面白おかしく描いたコメディである本作。その最終巻において、ついに連載を打ち切られた漫画家が自分たちの生活をネタにして、作中で『ふたりエスケープ』を新しく連載し始めるという、究極の自家発電展開、合わせ鏡のような無限百合地獄に手を出してしまった。百合はどうして永遠という檻に閉じ込められてしまうのだろうか。

 

 

 

usagi『地元最高!(2)』

みんなの地元は中立地点の公園を境に東地区と西地区に分かれていた。猫とバールをこよなく愛する紅麗亞さんが仕切る東地区。そして、シャブ中キチガイメンヘラヤクザのしづかさんが仕切る西地区。刑務所に入っていたしづかさんが出所することで、東西地域にきな臭い雰囲気が漂い始め、究極のドラッグ「バルーン」が地元民に蔓延していく……。紅麗亞さんとしづかさんが激突する第2巻だよ☆

正直に言って、第1巻の時点では本作をあまり評価していなかった。それは、本作が田舎の半グレに属する下っ端の人間にまつわるあるあるネタを戯画化して描いたものにしか見えなかったからだ。この内容なら、元半グレのユーチューバーチャンネルでも視聴しているのと何が違うのだろうかと思ったわけだ。

しかし、第2巻では反社会組織同士の抗争がテーマとなったことでドラマ性がぐんと増した。そうしてメインプロットが盛り上がることで、その間に挟まる単発話のクオリティも引き上げられているようだ。特に第35話「プリクラ」は良い。こうした暴力がなくても残酷な話が描けるからこそ、暴力を描いたときにより引き立つというものだろう。

 

 

 

意志強ナツ子『るなしい(3)』

ケンショーを「客」として見ようと努めてきたるなだったが、初めての淡い恋心には勝てなかった。
恋をしたことで、火神からの罰を受けたるな。そしてある日突然学校をやめた。
果たしてるなの行方は。そしてスバルとケンショーのその後の人生は。
物語は、10年後からまた始まる。

信者ビジネス「火神の医学」のシステムがつまびらかにされる第三巻。統一教会幸福の科学などが現実にまで浸食してきている昨今の日本において、カルト宗教はフィクションにおいても人気の題材である。そうしてカルト宗教フィクションが氾濫している現状であっても、本作が力強さを失わないのは、「持続可能なカルト宗教」とでも言うべき堅実さにあるのではないだろうか。フィクションにおけるカルト宗教は、すぐに人を殺しがちだが、本作の「火神の医学」はずっと穏当な活動を続けている。火神の子るなは、霊言のような奇跡を起こさず、ろうそくの火を揺らすだけだし、信者に破産するまで献金させたりせず、少額の信者ビジネスで成り立っている。本作で描かれているカルト宗教は、現実の世界にやってきたとしても持続可能で、社会ともに発展していけるのではないだろうかと思わせる。だからこそ、本当に恐ろしくグロテスクだ。

 

 

 

米代恭『往生際の意味を知れ!(7)』 

7年前にフラれて失踪した元カノ・日下部日和と再会し、
徐々に絆を深めていると思っていた市松海路。
しかし日和の叔母・美智の死後、
日和は再び市松の前から姿を消した。

過去を暴くべく山形に至った市松、
純白の雪景色で繰り広げられる骨肉の争いの行く末は!?

一つのクライマックスに向かいはじめた第七巻。改めて米代恭先生の異常性をしみじみと噛みしめる最新刊だった。なんといっても、妊婦になった日和が、この巻だけで二回も殴られたことに衝撃を受けた。普通の漫画家だったら、一巻の中で一回妊婦を殴ることはできても二回目は殴れないだろう。暴力はエスカレートするものだが、米代恭先生はあの手この手で「嫌な暴力」をお出ししてくる才能に満ち溢れている。

 

 

むちゃハム 『この百合はフィクションです 1 』

アイドルグループ<ぱらいそ☆伝説>のメンバー、伊達沙愛良と直江めぐむは見た目も中身も正反対ながら仲が良い“だてなお”コンビとして人気急上昇中。しかしオタが惹かれる“だてなお”は、気の弱い伊達を計算高い直江が支配下に置き、全てを主導することで作られた完全捏造百合商売だった――!!何とか直江の支配から逃れ、百合営業を辞めようともくろむ伊達だが道は険しく…?駆け出しアイドル×百合営業コメディ★

百合営業をやめたい主人公が、あの手この手で百合カップリングの好感度を下げようとするのだが、結局失敗しちゃって逆に好感度が上がるという同じ展開を延々と繰り返しているコメディ漫画である。漫画史に残る傑作じゃないけど、作者自身がわちゃわちゃしながら楽しく描いてくる雰囲気が伝わってくる。コメディ漫画はそれが一番大事。

 

 

 

木村恭子「一緒に起きてる」

お待たせ♡♡ キョンキョン待望の完全新作!!
身体が足りないくらいの痛みも 声にならない泣き声も
いつかキラキラ光って誰かのもとへ届くから。

中学二年生の川瀬天は、家族旅行で交通事故に巻き込まれて自分だけが生き残り、天涯孤独の身の上になってしまう。これから暮らす場所が決まるまでの間は、一時保護所に入所することになるのだが……というお話。

まずは、一時保護所という特殊な環境における少女たちの暮らしを非常に生々しくリアルに描いていることに度肝を抜かれる。そして、そのような厳しい現実の中で育まれる少女たちの連帯に強い感動がある。あまりよくない行いだが雑に例えると、少女漫画版『カッコーの巣の上で』だと思った。

 

 

 

龍村景一『副読本 ムラサキのおクスリ』

作者の修士論文をベースに尽くされた短編集『ムラサキのおクスリ』の解説漫画である。この一連の作品群とその活動が評価されて、東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻の首席作品に選ばれたそうな。

アカデミックな部分はよくわからないが、短編集の副読本/解説本として単純に面白く、作品ついて深く理解するには必読の内容となっている。というか、私の頭が鈍すぎるせいで、『ムラサキのおクスリ』というタイトルが「Red pill and blue pill」というミームが元になっていることにすら、この副読本を読むまでは気づけなかった。つまり、自分の人生を変えてしまう厳しい現実(赤いクスリ)か、今まで通りの自分にとって都合のいい幻想(青いクスリ)か、そのどちらを選ぶかという局面において宙づりになっている状況を、「(中間色である)紫のクスリ」という風に表現しているわけだ。そいった気の利いた発見が色々とある漫画なので読んでみてはいかが。