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雑文置き場

【10月漫画ベスト】速水螺旋人『スターリングラードの凶賊 1 』、向浦宏和『CHILDEATH 1』、後藤天泉『み♡あみ~ご』他、7作品+特集1本

10月に読んだ漫画の中で面白かったものを紹介していきます。

 

 

 

新刊のコーナー

向浦宏和『CHILDEATH 1』

幼い少年少女が血と肉を飛ばし魔女を殺す、残酷ファンタジー!!「地球」が人間を見放し、人間を殺す為の生物「魔女」を産み出すようになった未来。「時の魔女」によって全ての人間が【大人になると死ぬ呪い】をかけられ、地球上で生き残っているのは子供たちだけになってしまった。その子供たちも色々な魔女から命を狙われ、日々死んでいく中、魔女への逆襲を諦めない少女がいて…?

子供だけが生き残り、魔女が支配するポストアポカリプスな世界。そこで繰り広げられるジャンプ的な能力バトル。この二つの要素をうまくミックスした作品になっている。似たような先行作品はいくらでもあるのだが、モンスターのビジュアルも新鮮でインパクトのあるものになっているし、何よりも子供たちしかいないという世界観の設計が意外にちゃんとしていて、充分にオリジナルな味わいを引き出せている。

 

 

速水螺旋人スターリングラードの凶賊 1 』

舞台は1942年。独ソ戦真っただ中のスターリングラード。美少年・美女・ならず者に食わせ者が敵味方入り乱れる中、「市民の疎開が禁じられた街」を舞台に展開する東部戦線ウエスタンアクション第1巻!

女と見紛うロシア美少年・ルスランカと、胡散臭いが切れ者らしい東洋人・トーシャ、このバディーが東部戦線を駆け抜ける。

ルスランカに「なんで命を張っているのか」と尋ねられ、「高慢ちきな美少年がジタバタしたり挫折するのが見たいんですよ。特等席でね」と答えるトーシャ、この二人の温度感が最高にいい。

 

 

堤葎子『生まれ変わるなら犬がいい(1)』

美青年を【犬】として飼う話。犬として愛されることが、こんなにも幸せだなんて…無職で女癖の悪いクズ青年。山で遭難していたところを女の子に助けられて彼女が独りで暮らす山中の屋敷に連れていかれる。女の子はシルクという犬をこの世界の何よりも愛していて…しかしその愛犬は二年前に失踪してしまっていた。以来死んだように生きてきた彼女はなぜか青年をシルクと思い込み【犬】として飼い始めるのだ…

タイトルとあらすじを読んだだけでは、官能的で変態的な漫画のように勘違いしそうですが、さもあらず。

複数の女たちのヒモとして暮らしている主人公の男が、山中のお屋敷で暮らしている純粋で静かに狂っているお嬢さんに出会って、本当の恋を知っていく話である。狂女とのラブストーリーはいくらあってもいいもの。

 

金田一蓮十郎『ぼくらはみんな*んでいる 1巻』 

10数年前、死後まれにゾンビ化してしまう未知のウイルスが突如世界に蔓延した――。死んだけど普通に動いている。ゾンビといっても、ただそれだけ。そんな世界で、人々はそのウイルスと共存しながら今日も生活をしている――。女子高生の杏野春実、ブラック企業に勤める砥山紘一、冷めきった夫婦生活を過ごす合川夫妻……そんなゾンビになった人達の“生きる”を描くオムニバスドラマ開幕!

ゾンビが一般化して、社会的に認められた世界で綴られるオムニバスドラマ。

死んでしまっても、それが深刻に受け止められず普通に続いていく世界が、重い問題を抱えた登場人物だらけでも深刻にならずギャクとしていく作者自身の作風と、パラレル構造になっていているようでもある。シリアスなことをシリアスに受け止めないことでにじみ出てくるグロテスクさが面白い。

 

 

後藤天泉『み♡あみ~ご』

パパ活」で決して交わることのなかった二人は出逢い、運命が交差する一夜が始まる。

第78回 ちばてつや賞 ヤング部門を受賞した後藤天泉が帰ってきた。

まともな仕事に就くことができず、社会不適合者として「パパ活」で暮らしている女性が、3Pの現場で出会った同い年のギャルと奇妙な一夜を過ごすお話である。最悪な出会いが、いつの間にか最高の出会いに変わっている。後藤天泉先生のマジックを存分に味わうことができる。

 

magazine.yanmaga.jp

 

 

旧刊のコーナー

岡田 あ~みん『新装版 ルナティック雑技団 1』

学園のアイドル・天湖森夜の家に下宿する事になって、ウキウキの星野夢見。けれど天湖の母は2人が親密になる事が心配なあまり、奇妙な行動を。そして夢見に想いをよせる愛咲ルイと、天湖に片想いの成金薫子は――。

『りぼん』で破天荒なギャグ漫画を載せていた「岡田 あ~みん」という伝説的作家がいるという噂は聞いていたので、どんなものかと読んでみたのだが、確かにこれはとんでもない作家だなと思い知らされた。

ハイテンションなギャク漫画でありながら、同時に王道の少女漫画でもあるという離れ業。狂ったキャラたちが入り乱れる様は、タイトルの通りのルナテックな雑技団を見せられているようだ。

 

 

 

WEB漫画のコーナー

さとかつ『エウロパの魚』

木星第二衛星「エウロパ」に住む少女イオは、地球から「光る魚」もといオニビウオを獲りに来たという学者モロコと出会う。捕獲に協力することになったイオだが、オニビウオに対しトラウマを抱えていて…

百合魚釣りSF。百合も魚も好きだから、この作品も好き、以上。

 

kuragebunch.com

 

 

特集:MMA漫画は、格闘漫画の主流になれるのか?

格闘漫画と言えば何を思い浮かべるだろうか? 

『ケンガンアシュラ』、『バトゥーキ』、『グラップラー刃牙』、『喧嘩商売』、『エアマスター』、『はじめの一歩』、『あしたのジョー』など、色々とあるわけだが、今までの格闘漫画のヒット作は「バーリトゥード(何でもあり)」か「スポーツ(ボクシングや空手、柔道)」を題材にしたものが多かった。

しかし、近年はそのどちらもない「MMA総合格闘技)」を題材にした新しい格闘漫画が流行りつつあるようだ。私がそのように感じるのは、漫画界のトップランナーであるべき少年漫画誌において、MMAを題材にした面白い作品が連続して登場しているからだ。具体的には、サンデーで連載中の波切敦先生レッドブルー』と、ジャンプで連載中の川田先生『アスミカケル 』である。

それぞれの作品がどう優れているのかという話はいったん置いておいて、このような作品たちが同時多発的に出てきたことには、以下の二つの要素があるように思う。

①日本においてMMA総合格闘技)が再びブームになりつつあるということ。

MMA漫画というジャンルが「バーリトゥード」と「スポーツ」の良いとこ取りをした、優れた形式であるということ。

以前の日本は、MMA総合格闘技)先進国だった。2000年代初頭においては日本の「PRIDE」こそ が世界最高峰の格闘技イベントだったのだが、様々な理由によってブームが去り、テレビの地上波放送がなくなり、世間の注目度は下がっていった。それが近年になって、ユーチューバーとなって人気を得る選手が出てきたり、コロナ禍でネット配信の視聴者が増えたり、色んな要素が嚙み合って、再び格闘技に対する注目度が盛り返しているのだ。そのような日本の情勢が、MMA漫画の活況にいい影響を与えているのは間違いないところだろう。

そして、MMA漫画はただの流行りというだけではなく、格闘漫画の形式としても優れているようにも感じる。つまり、昔から続く格闘技漫画の伝統、「バーリトゥード」と「スポーツ」の良いとこ取りである。MMAであれば、様々な格闘技のバックボーンを持った選手が争いあうという「バーリトゥード」のスリリングさを味わうこともできるし、決められたルールの中で競い合って大会を勝ち上がっていくという「スポーツ」の盛り上がりも演出できるのだ。「バーリトゥード」の格闘技漫画でも、トーナメント形式をとることによって似たような効果を演出できたのだが、徐々にそのやり方に限界が生じてきている(刃牙シリーズの迷走っぷりを見よ)状況において、これは福音ではないだろうか。

色々書いてきたわけだが、とにかく良質なMMA漫画の供給が長く続くことを願っている。

 

波切敦レッドブルー(1)』

根暗少年×総合格闘技MMA)、第1巻!

根暗で病弱な少年・鈴木青葉は“神童”赤沢拳心の一言が許せず、「一発殴る」ことを心に誓う・・・!!史上最も暗い(?)主人公が、最強の格闘技“MMA”の世界へ飛び込む!!『switch』の波切敦が描く、新時代のスポーツ漫画 開幕!!

学校でいじめられていた根暗主人公・鈴木青葉が、自分とは真逆なMMAのスター選手・赤沢拳心に助けられたことから物語ははじまる。このはじまり方からすれば、主人公は拳心に憧れて格闘技をはじめそうなものだが、この作品はそこが一味違う。異色の主人公像が非常に興味深い作品である。

 

 

川田『アスミカケル 1 』

総合格闘技MMA)――それは打・投・極「何でもあり」の格闘技。 祖父の介護を手伝いながら冴えない日常を過ごす高校生・二兎は、ひょんなことから格闘技ジムに足を踏み入れる。そこで女子プロ格闘家を目指す先輩・奈央の導きにより、二兎の秘めた才能が発覚し――!? 肉体と魂が激突する、総合格闘技ストーリー!! 試合開始(スタート)!!

古流武術の達人である祖父の相手をしているうちに、いつの間にか強くなっていた高校生・二兎が、ひょんなことから総合格闘技に出会う物語である。ロマンのある設定と、筋骨隆々な男たちがぶつかりあう迫力ある画面が魅力的である。

 

 

LOCKER ROOM/BAEL (制作), 朝倉 未来 (原案) 『路上伝説 朝倉未来列伝 1』

朝倉未来が降臨する、もうひとつの世界線――。

主人公・朝倉未来は、よくほかの不良たちに目をつけられ、日々喧嘩に明け暮れていた。そして、いつしか喧嘩にスリルを求めるようになっていた未来の前に、次々と立ちはだかる者たちがいた。未来の強さ、信念、初めての友達……。伝説が今、幕を開ける――。

ここ数年の日本格闘技界において、良い意味でも悪い意味でも中心人物であった朝倉未来の自伝的漫画である。

注意しておくが、漫画としては全く面白くない。しかし、実在の選手の自伝的漫画とは信じられないほど、荒唐無稽な内容がかえって面白い。

 

 

ちなみに、僕の一番好きなMMA漫画は太田モアレ先生の鉄風である。

よく考えると、レッドブルー』と主人公像が妙に似ているなあ。

 

 

 

今月のお見送り

灰田 高鴻『夢てふものは頼みそめてき Daydream Believers(4)』

運命の出会いを果たした浮世絵師・池田輝方と女学生・榊原百合子。絵画展落選に落ち込む百合子は、半ば投げやりに輝方へ求婚するが…?すれ違い、ぶつかり合い、夢と現の境目も時代すらも飛び越えて、それでも人は愛することをやめられない。描くことにも愛することにもまっすぐに突き進んだ二人の恋路の果てにあるものとは…。
時を超えて紡がれる芸術と愛を描いた、タイムレス・ラブストーリー、堂々フィナーレ!

スラップスティックなラブコメから、お話は一気に進展して浮世絵師・池田輝方と女学生・榊原百合子は結婚することになる。

普通のラブコメであれば、結婚すればめでたしめでたしと相成るわけだが、そう簡単にはいかないのが灰田先生の味であろう。むしろ、婚約してからこそ、自分の幸せを信じることができない榊原百合子の倒錯的な性格が前面に出てきてスリリングだった。万人にすすめられる作品ではないが、こっそりと偏愛したい作品である。

 

 

冬虫カイコ『みなそこにて : 3』

“人喰い人魚”の古い民話が残る田舎町で、永遠の孤独を生きる存在“千年さん”。町が未曾有の大雨に襲われるなか、ついに露わになる人魚伝説の真相。そして初めて彼女と触れあった人間・令子と、その孫娘・一花による、種族と時を超えた交流の行く末は…。同じ世界では生きられない【孤独な人魚×少女たち】のミステリアス異類譚、ここに完結――。

人魚伝説の真相が明らかになり、大団円を迎えた最終巻。期待していたホラー要素は後退し、話をまとめることに終始した感じは否めない。しかし、事態が解決しても、母娘の確執が解消されるわけではないという、ビターな味わいの結末にはどこか深い感動があった。

 

 

ムネヘロ『ムシ・コミュニケーター 3』 

ひとりぼっちの あなたに。

遠藤のために立ち去ることにした百佳だが言葉にできない思いが渦巻き――。

人と虫。人と人。
距離の取り方がほんの少しだけわかるかもしれない、やさしい物語。

作者の描きたかったものが、やっと少しわかったような気がする最終巻だった。

本作では、主人公の助けた虫がすぐに死んでしまう姿を何度も繰り返し描いている。虫の声を聴き、虫を助けるという行為は、何にも結び付かない。虫の声は、しょせん聞く価値のない声なのだ。しかし、聞く価値のない声に耳を傾けることこそが尊い行為なのだと、本作は伝えている。他人となじむことができず、友達の一人も作れなかった主人公の声こそ、聞く価値のない声だからだ。虫の声に耳を傾けることは、まさに過去の独りぼっちだった主人公自身を救うことなのだ。