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雑文置き場

何かの漫画26選

 

 蔵書整理をしていたら懐かしい漫画が色々でてきたので、適当にカテゴライズして26選つくりました。本当は100選を作るつもりでしたが面倒でした。

 というわけで、オールタイムベストではないですがいってみましょう!

 

・異種共生の漫画4選

 

1.田中雄一田中雄一作品種 まちあわせ』(講談社
2.小川幸辰エンブリヲ』(講談社
3.久井諒子『竜の学校は山の上』収録「進学天使」(イースト・プレス
4.ねこぢるねこぢるせんべい』収録「ねこざる戦争」(集英社

 

1.異形の生物と人類の間に生じる闘争と共存を描いたSF短篇集。未知の生物と接した人間の恐怖を生々しく描くことに長けている作品であり、異生物から攻撃されることの身体的恐怖にとどまらず、理解できない存在に相対した時の心理的恐怖を読者に伝えることに成功している。


2.虫の子供を宿す少女が巻き起こすパニックホラー。パニックものの原理原則を押さえ、適度なエログロを盛り込みつつも、主人公の少女にどこか爽やかな感じを受けるのが独特の味である。虫の子供を出産するシーンはグロテスクでありながらどこか神話的で荘厳な雰囲気に満ちている。ちなみに作者は別名でロリエロ漫画を描いている。

 

3.久井諒子は同人作家時代から繰り返し亜人との共生をテーマにしているが、特に本作は、もし天使のような有翼人がいたらというIFだけで終わるのではなく、そこから生まれる切ない青春ドラマに昇華しているのが秀逸である。

 

4.共存していたネコとサルがどちらかの一族が根絶やしになるまでの戦争に発展する話。ねこぢるは一貫して主張している。他者と同じ世界で暮らす以上は、まともな人間ほど狂気に陥らざる得ないことを。私たちもにゃーこやにゃっ太のように生きられねば狂うのみかもしれない。

 

 

 

 

エンブリヲ 1

エンブリヲ 1

 

 

 

竜の学校は山の上

竜の学校は山の上

 

 

 

ねこぢるせんべい (愛蔵版コミックス)

ねこぢるせんべい (愛蔵版コミックス)

  • 作者:ねこぢる
  • 発売日: 1998/08/20
  • メディア: コミック
 

 

・実録の漫画2選


5.道草晴子『みちくさ日記』(リイド社
6.永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス

 

5.13歳で漫画デビューするも精神科病院に入院することになった著者の半生を描く圧倒的密度の実録漫画。マジックで書きなぐったかのような四コマ漫画であるが、本作にはその時々の著者の心情がはっきり伝わる確かな技術があり、重い話をそう感じさせず読ませることに成功している。


6.レズ風俗のレポと言いつつ、実態は生きづらさを抱えた女性のエッセイ漫画である。こういった手合いの漫画は困難的状況から脱した後に懐古的手法で描かれるものが多いが、著者が未だ困難の中でもがき続けていることが伝わるところに妙な迫力があり、回顧録がメインであった実録漫画に、独特なドライブ感を持ちこんだことは革命であるかもしれない。

 

みちくさ日記 (トーチコミックス)

みちくさ日記 (トーチコミックス)

 

 

 

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

 

 

・陰鬱になる漫画3選


7.小田ひで次『夢の空地』(飛鳥新社
8.円山みやこ『蟲笛』(青林工藝舎
9.吾妻ひでお『夜の魚』(大田出版)

 

7.本作はホッとするような作風だったファンタジー『クーの世界』に対する正統続編でありながら、前作の感動をひっくり返すような陰鬱さが驚きの作品。ク―という女子中学生が夢の中で死んだ兄と似た青年と旅をすることで心の喪失を埋めていくという前作にしても、思春期の恋愛やいじめといった不穏な要素も多分に含まれていたが、その続編として作られた本作はファンタジー要素をなくし、その不穏で陰鬱な部分をより発展させている。特に様々な問題を抱えてはいるが素直で透明感のあった少女が、大学生になって講師と不倫関係に至り爛れた生活を送っている様子や、夢世界での冒険が精神病から生じる妄想であったかのように扱われていることは衝撃的である。しかし、この陰鬱さはファンタジー要素を現実から逃避する手段ではなく、現実を直視するための武器だとする真摯な態度だと評価したい。


8.本作がなんと言っても目を引く部分は、「女子高生コンクリート詰め殺人事件」「新潟少女監禁事件」など時代を代表するような凶悪事件を題材にしていることだろう。こういったセンセーショナルな事件を扱う場合、恐ろしい犯人たちがどういう歪んだ人間だったかということに視点が置かれがちである。しかし、本作は徹底して被害者、もしくは事件を見過ごした凡庸な市民の視点を通して描かれるため、露悪的なエンタメでは絶対に成し得ない絶望感を余韻として残すことになる。本当の意味で被害者の立場から凶悪事件を描くことは、ここまで危険な表現なのだと私たちは気付かされる。


9.大田COMICS芸術漫画叢書という完全に大塚英志の趣味で作られた謎の叢書の第一回配本である。『失踪日記』では悲壮な現実を明るくポップにも見えるようにも描いていたが、そこに至るまでの自閉的精神状態を描いている。エッセイ漫画のようでもありながら、私小説的なアート漫画にも思える。どうにも煮え切らない生々しさが本作の味であり、どこか気味の悪さを感じさせる。

 

夢の空地

夢の空地

 

 

 

蟲笛

蟲笛

 

 

 

 

・姉、あるいは妹の漫画6選


10.富沢ひとし『プロペラ天国』(集英社
11.ルネッサンス吉田『あんたさぁ、』(小学館
12.宮崎夏次系『夕方までに帰るよ』(講談社
13.華倫変『カリクラ②』収録「テレフォンSEX」(講談社
14.西村ツチカ『かわいそうな真弓さん』(徳間書店
15.大田モアレ『鉄風』(講談社

 

10.「私の姉は出来が悪い」という印象的なモノローグではじまる本作は、「合成人間」と呼ばれる新人類的存在が共存する世界で、「恋愛探偵組」を結成した姉妹が合成人間絡みの事件を解決していくという物語である。少女漫画的とも萌え漫画的とも微妙に違う独特な愛らしさを持つ少女キャラクターや、最終的には何やらよくわからない観念的でSF的な解決を迎えるという点においては、『エイリアン9』以降の富沢ひとしの典型的な作風であると言えるだろう。しかし、本作が特に優れている理由は、「姉:妹」というミクロの関係性が、そのまま「合成人間:普通人間」という物語上のマクロな関係性に対照していることである。姉は妹よりも偉いのだから姉は妹に対して支配的な影響力を持つが、それは一面に過ぎず、妹も主体的に行動することで姉に影響を与え続けているのである。その姉妹の関係性が合成人間と普通人間の闘争を打ち破ると可能性を感じさせて物語は閉じる。


11.「われといふ時計は疾うに停止して」、ここでいう停止した時計とは姉のことである。時間が止まってしまった姉は漫画を描いたり売春をしたりして暮らしつつ、弟と過ごしたとりとめもない思い出を溢れださせる。これはそんな漫画である。姉弟は止まった時間の中で何を語るのか。時間は前に進むだけではない心地よい諦観の姉漫画である。止まった時間というのは、姉漫画において最も重要で頻出するテーマではあるが、それだけで一本の長編漫画に仕立てあげてしまうのは凄まじい。


12.新興宗教にハマってしまった両親のことを相談しようと、久しぶりに主人公は姉に会いに行くのだが、姉はひきこもりになっていて……。短編だけではなくて長編をやらせても夏次系はすごいと世間に認めさせたわけだが、姉漫画に対する理解度も常人をはるかに越えている。なぜといって、この漫画ではほとんど姉が出てこないのである。終盤になってやっと姿を現すことは現すが、彼女はダンボールを頭から被ったままなので、私たちは姉がどんな顔をしているのかすら知ることはない。それでも漫画の1コマ、1ページの隅々から姉の声が聞こえるし、姉の存在を感じるのである。こんな漫画はたぶん他にない。


13.華倫変は苦界、つまりは売春をテーマにした話を執拗に描く、タイトルを見れば明らかなように本作はテレクラを題材にしている。姉が夜になると頻繁に電話をしていることに疑問を抱いた弟は、姉の身辺を調査しはじめる。弟の立場から見た姉の清廉さが、かえって苦界の闇を想像させる。姉はどこか影があってミステリアスであればあるほどいい。


14.「今日から真弓おばさんは…真弓姉ちゃんに変わります」年をとる程に若返っていく真弓さんは、登場時は主人公よりお姉さんで、そのうちに同い年になり、年下の妹になっていくことになる。姉は時間が固定されていることこそが特徴であったはずなので、真弓さんの時間は私たちが追いつけないスピードで流れていく。これは姉漫画だと言えるのか、姉漫画の開いてはいけない扉を開いてしまったのかもしれない。


15.リアルな女子総合格闘技漫画という点において、本作はそれだけでも充分にオリジナルな作品(つまり「バキ」シリーズなどに見られるようなファンタジックな格闘描写は欠片もないというところがかえって魅力的)ではあるのだが、何を隠そう本作は妹漫画なのだ。今まで見てきた姉漫画の鏡像と言ってもいい。主人公は「妹」であり、彼女が総合格闘技に打ち込む動機は時間の止まってしまった「兄」の存在に支配されている。姉をよく知るためには、妹のこともよく知らなければならないだろう。

 

プロペラ天国

プロペラ天国

 

 

 

 

 

 

 

カリクラ 華倫変倶楽部 下

カリクラ 華倫変倶楽部 下

 

 

 

かわいそうな真弓さん

かわいそうな真弓さん

 

 

 

鉄風(1) (アフタヌーンコミックス)

鉄風(1) (アフタヌーンコミックス)

 

 

・夢の漫画3選


16.真柴真夢喰見聞』(スクウェア・エニックス
17.福島聡『DAY DREAM BELIEVER again』(KADOKAWA
18.原作:奥瀬サキ、漫画:目黒三吉低俗霊DAYDREAM』(KADOKAWA

 

16.「夢」を読み解くことをテーマにした漫画はよくあるものだが、本作がすごいのはその構成力とアイデアの発想力である。一話完結のスタイルで全九巻も続けたうえに毎回ちゃんと面白くて捨て回がないということは驚異的と言う他ない。


17.18.夢と言っても寝ている時に限るものではなく起きている時にみるものもある。デイドリーム(白昼夢)の名を冠する二つの漫画は間違いなく、起きている時にみる夢の恐ろしさを確実にとらえて、私たち読者を離さない。

 

 

 

DAY DREAM BELIEVER again 1 (HARTA COMIX)

DAY DREAM BELIEVER again 1 (HARTA COMIX)

 

 

 

 

・ミステリの漫画5選


19.早見純『性なる死想』収録「激痛100%」(久保書店
20.諸星大二郎『ぼくとフリオと校庭で』収録「黒石島殺人事件」(双葉社
21.藤田和日郎『夜の歌』収録「夜に散歩しないかね」(小学館
22.呪みちる『青色の悪魔円盤』収録「侏儒―リューゲル―」(ソフトマジック

 

19.ミステリ読みにはどんでん返しを何よりも好む傾向がある。そのどんでん返しがごく単純な仕掛けであり、その単純さゆえに誰もが騙され世界がひっくり返るようなものが至高だろう。早見純の成人向け漫画は、猥雑で猟奇的でありながらどこが詩情を備えている。それゆえ、何かが間違った時、突然変異的にミステリ短篇が発生するのだ。同書収録の「のど奥深く」もミステリなので読もう。


20.ミステリというジャンルは、たいてい物語の序盤に殺人事件が起こって、そこからは誰がどうやってなぜ殺したのか、トリックやロジックを駆使した喧々諤々の議論の末に解き明かしていくわけだが、その過程で事件の主役であるはずの死体(被害者)は背景になって脇に追いやられてしまうことが少なくない。この短篇はまさにその点を痛烈に皮肉っている。


21.ミステリに期待するものがすべて詰まっている。すべてとは、幽玄、猟奇性、薄幸の美少女、異常者の探偵、犯人の異常な心理、大掛かりな物理トリックなどのことだ。


22.昔、本格ミステリ作家の蘇部健一は「一目瞭然の本格ミステリ」を目指し、イラストレーションを多用した『動かぬ証拠』などの諸作品をつくった。その完成形とも言えるのが本作である。

 

純の魂

純の魂

 

 

 

 

 

 

 

 


・学校の漫画3選


23.奥田亜紀子『ぷらせぼくらぶ』収録「放課後の友達」(小学館
24.深山はな『一端の子』収録「あろえなあなた」(秋田書店
25.阿部共実『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』収録「がんばれメガネ」(秋田書店
26.著者:背川昇、監修:般若/R-指定『キャッチャー・イン・ザ・ライム』(小学館

 

23.学校とは日本で生きている大多数の人が経験したことのある地獄なので、誰もが懐かしさを感じることができる。奥田亜紀子はそうした懐かしい地獄を、私たちとつなぎ止めておくことが圧倒的にうまい作家である。この話で登場する土屋くんは二頭身の明らかに漫画キャラなんだけれど、僕はなんかこいつとは昔の友達だった気がしてくるのだ。


24.何年間も同じ人間と同じ場所で顔をあわせていると段々とその人のことが当たり間にわかったつもりになっていくのだけれど、実のところ全然わかっていないし、その人は学校の外ではまた別の顔をしているという話。学校での出来事は人生の全てを支配していると感じることもあるけれど、あくまで人生の「一端」でしかないのだ。


25.と、言ったそばから、卒業してからもずーっと学校の思い出に支配されているメガネの話。またこれも人生の真実なので。


26.学校と言えば部活。部活漫画はリーダビリティーを高めるために大きな目標(大会優勝、ライバル校打倒……)を定めることが多い。しかし、本作にはこれといったものがない。登場人物たちの活動は、成功のための努力というよりも自己実現のための修行になっている。あと、日本のスラム街として団地が出て来るのがよい。いつか団地漫画10選をつくりたいと思う。

 

 

ぷらせぼくらぶ (IKKI COMIX)

ぷらせぼくらぶ (IKKI COMIX)