村村

雑文置き場

『アクタージュ act-age』はなぜ本格ミステリなのか

 皆さまは現在『週刊少年ジャンプ』で絶賛連載中の役者バトル漫画であるところの『アクタージュ act-age』をご存じでしょうか。私は週刊少年ジャンプを愛読しておりまして、つい最近アクタージュの「scene115. 必勝」を読んで「アクタージュは本格ミステリである」という結論に達しました。しかし、その意見をツイッターでつぶやいたとたんに、知人からは「意味不」「世界中でアクタージュを本格ミステリだと思っているのはお前だけ」などと多数のお叱りを受けてしまいました。

 
 したがいまして、なぜ私が「アクタージュは本格ミステリである」と考えるようになったのかについて書き記しておこうと思います。
 ではさっそく本題に進みたいところですが、その前に以下の注意点をご確認いただいてから読み進めるようお願いします。

① ここから先はアクタージュのネタバレが多分に含まれおり、読んでいることを前提に書いています。単行本派の方は読まない方がいいでしょう。


⓶ ここはアクタージュが本格ミステリかどうかを検討する場であり、本格ミステリとは何かについて統一見解を出すことを目的にしていませんのでご理解ください。

 

 

 

 

 アクタージュは本格ミステリである、もっと正確に言えば「scene115. 必勝」が本格ミステリである、と私は確信していますが、賛同者が少ないことは想像がつきます。

 予想される反対意見としては、「そもそも事件も何も起こっていないので、物語上に解かれるべき謎が存在しない。つまり、謎が提示され論理的に解明されるという本格ミステリの基本的な様式を備えていない」ということになるでしょうか。たしかに、アクタージュの作中では殺人事件が起こっているわけでもないですし、名探偵がでてくるわけでもありません。大河ドラマのオーディションが行われているだけです。

 しかし、読者に対して謎が投げかけられている作品だと思います。本格ミステリとは、作者と読者間に生じる一種の知的遊戯であるという考え方を受け入れるのであれば、読者に対して謎が提示されていれば充分に本格ミステリだと言えるわけです。

 ここまでのところに納得していただいたとしても、「ちょっと待ってくれ。読者に対して投げかけられた謎なんてあったのか?」という反論がありそうです。「アクタージュでの謎とは何のことだ? フーダニットか、ハウダニットか、ホワイダニットか、何もないじゃないか」というわけです。

 実のところ、「scene115. 必勝」は、それらのどれでもなくホワットダニット作品だと私は考えています。ホワットダニットというのも使う人によって意味の違う言葉なので注意が必要ですが、私は島田荘司先生の考えを参考にして、19世紀半ばの人たちがはじめて「モルグ街の殺人」を読んだ時のような何を読まされているのかもわからないようなミステリ、フーダニット・ハウダニットホワイダニットが未分化のミステリだと捉えています。つまり、ミステリ小説というジャンルすら存在しなかった時代の人間が「モルグ街の殺人」を読んだ時と同じように、現代の私たちはアクタージュを読んで「これはどういう物語なんだろう」というふうに考えさせられるわけです。

 とはいえ、私たちは19世紀半ばの人間ではないのでミステリがどういうものなのか、多少は知っています。ホワットダニットが、フーダニット・ハウダニットホワイダニットの未分化の謎、あるいは不可分なほどに複合された謎であると考えるとしても、ある程度まで切り分けて考えることは可能でしょう。「モルグ街の殺人」にしても、誰が犯人なのか(フーダニット)、どうやって密室で殺人を犯したのか(ハウダニット)、そもそも動機はなんなのか(ホワイダニット)というふうに細分化して認識することは可能です。

 「scene115. 必勝」の場合は、オーディション会場に現れた無名の新人とは誰なのか(フーダニット)、無名の新人が夜凪景だとすれば、どうやって他の受験者に気付かれずに済んでいるのか、メソッド演技を使う夜凪は自分の過去の経験をもとに演技するか他人から感情を教えてもらわないと演技ができないはずなのに全く別人の演技をどうやって可能にしているのか(ハウダニット)、そもそもオーディションで別人を演じる理由はなんなのか(ホワイダニット)ということになります。ただ一つの作品に、フー・ハウ・ホワイが盛り込まれているというだけのことではありません。その三つの謎が不可分なほどに絡みあい、むしろ謎が別の謎を補強しあっている作品がアクタージュなのです。
 例えば、「オーディション会場に現れた無名の新人とは誰なのか(フーダニット)」という謎に対しては、無名の新人は主人公の夜凪であると予想がついていた人は多いでしょう。

 しかし、確信を持つことは困難なはずです。なぜならば、「どうやって他の受験者に気付かれずに済んでいるのか、メソッド演技を使う夜凪は自分の過去の経験をもとに演技するか他人から感情を教えてもらわないと演技ができないはずなのに全く別人の演技をどうやって可能にしているのか(ハウダニット)」という部分に説明がつかないからです。ついさっきまでオーディションの待合室で隣に座っていたのに、髪をくくって眼鏡をかけた変装だけで正体を見破れないのは不自然です。ではなぜ、他の受験者が夜凪の存在に気がつかなかったのかと言えば、それは変装ではなく演技だったからです。演技によって別人を完全にトレースしていたので気がつけなかった。

 さらに「そもそもオーディションで別人を演じる理由はなんなのか(ホワイダニット)」が真相に近づくことを邪魔します。これらの謎は一つ一つ解いていこうとすると、他の謎が邪魔になって解くことができないようになっています。

 ホワットダニットの目線で何が起こっているのかということを考えなければ完全解答に至ることはできないわけです。


 皆さまもアクタージュが本格ミステリであることにご納得いただけたでしょうか。ちなみに、「scene115. 必勝」はいわば問題編であり、「scene116. もっと」が解決編になっております。ぜひ解決編も読みこんでいただき、アクタージュが本格ミステリであると改めて確信していただければ幸いです。ご静聴ありがとうございました。