【すてっぷ③】DIYって、どうして・いきなり・やってきた?
お恥ずかしい話ですが、今期アニメの『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐(以下、DIY)』の第3話を見て、私は号泣してしまいました。
しかし、自分の周りの反応は「この話のどこでそんなに感動したんですか?」というものが全てで、自分と同じ感動を分かち合える人間がいなかったのです。
このままではアニメを見て情緒不安定な中年男性として社会からつまはじきにされてしまうという危機感があり、なぜDIYは泣けるのかについて言語化しておくことにしました。少しでも同好の士が増えることを願います。
まず皆さんには、DIYがどのようなアニメなのか知ってもらいたいのですが、(公式HP等を見ていただくのが一番良いのですが)あえて私から簡潔に表現するとすれば「DIYを題材にした部活ゆるふわ日常アニメ」ということになります。特に序盤にあたる1~3話の展開は、部活ものの定番イベントである部員集めがテーマになっています。それだけわかっていれば問題ありません。
独り言コーナー①「抜け感のあるアニメ」
今期のアニメは『チェンソーマン』『BLEACH 千年血戦篇』に代表されるリッチでゴージャスなアニメ表現が世の中を席巻していますが、それらとは違う道を進んでいるのが『Do It Yourself!! ‐どぅー・いっと・ゆあせるふ‐』だと感じます。リッチやゴージャスを追い求めない、適度に「抜け感」のある画面は、独自のアニメ的快楽があります。
ジョブ子登場!
さて、3話は部員集めの続きのなります。今回の部員候補は、アメリカから12歳で飛び級進学してきた天才少女・ジョブ子です。
ジョブ子は、リムジンで登校したり、英語で話しかけてきた学生に「シャラップ!」と叫ぶなど、高飛車で周りを寄せ付けないキャラとして描かれます。
一方で、本作の主人公・せるふがDIY部の活動として釘を打つ練習をしています。相変わらず集中力を欠いた危なっかしい手つきですが、部室の外から誰かの泣き声がするので練習は一旦中止になりました。
泣き声の正体は、噂の天才少女・ジョブ子でした。くれい部長やたくみは声をかけられませんが、せるふは物怖じせずジョブ子に声を掛けます。
くれい部長「すごいな、あの無神経……遠慮なく踏み込む感じ……」
ジョブ子はせるふの積極性で心を開きかけたが、DIYなんて「カビの生えた技術」だと部活内容を馬鹿にしてしまい、くれい部長の怒りを買ってしまうことになります。そして、その後のジョブ子が、自分以外に誰もいない高級マンションの一室で寂しそうに眠りにつく様子が描かれます。
独り言コーナー②「ジョブ子の孤独」
ジョブ子が自分の住まいに帰った後の一連のシーンは、恵まれた衣食住を与えられながら、かえって孤独を感じているジョブ子の感情を表現しています。このシーンにセリフは一切なく、背景美術と細かい仕草の演技だけで彼女の孤独を表現する手腕はお見事と言うほかありません。
独り言コーナー③「主人公・せるふ」
正直に言うと、1、2話の段階では主人公がせるふであることに違和感がありました。せるふは普通に通学しているだけでも生傷が絶えない不注意な人間として描かれています。ありていに言えば、せるふは一番DYIに向いていない人物です。視聴者もDIYの面白さを感じる前に、せるふが工具を握っていることの危なっかしさでハラハラしてしまいます。これでは、アニメ視聴においてノイズになってしまう。しかし、3話を視聴したことで、このアニメの主人公がせるふでなければならなかった理由も見えてきたような気がします。
せるふに「できること」「できないこと」
昨日と変わらず、釘打ちの練習をするせるふですが、天性の不器用さを発揮して全く進歩が見られません。部長から何度も「まっすぐ」が大事だと説明を受けますが、釘は曲がってしまいます。
そこに、せるふに借りていたハンカチを返すのを口実に、あるいは雨宿りのために、ジョブ子が部室に毎日やってきます。そして、彼女は自分が作った自家製スマホの自慢をはじめてしまいます。彼女の姿勢がDIYを馬鹿にするものに感じた部長は、つい声を荒げます。
くれい部長「DIYを馬鹿にするなら、もうここに来るな!」
ジョブ子はその言葉に傷ついて、雨の中、部室を飛び出して行ってしまいます。せるふはすぐさま後を追いかけます。
そして、部室に残されたくれい部長とたくみは、年齢的には小学生のジョブ子に対してつらく当たったことを反省するのでした。
次の日になって、みんなでジョブ子が部室に現れるのを待っていますが、彼女は一向に現れません。そこで、せるふは提案します。
せるふ「じゃあ、迎えに行こうよ!」
くれい部長「迎えにって、そんな簡単に……いや、簡単でいいんだな。こういうのは」
そして、部員全員でジョブ子のことを迎えに行きます。
感動ポイント①「主人公・せるふ」
今回のお話では「まっすぐ」という言葉が繰り返されます。釘はトンカチでまっすぐ叩けば曲がらないからです。
というわけで、せるふはいつまでたっても「まっすぐ」釘を打つことができないのですが、逆にせるふは「まっすぐ」できているのに、他のキャラクターたちは「まっすぐできない」ことがあります。それは、人間に対して「まっすぐ」ぶつかることです。ジョブ子に対して真っ先に声をかけるのはいつもせるふで、他の部員はジョブ子を遠回しに避けて、時には怒りをぶつけてしまいます。
部員たちは、お互いがお互いに欠けているものを埋めあうような助け合いの関係性で成り立っています。
ここで視聴者の私は、功利主義に塗れた自身の醜い心を自覚して泣き崩れました。
「独り言コーナー③」で言った通り、私はせるふのことを「なんで不器用で不注意なのに、わざわざ一番向いていない部活に入るんだ」と思っていたわけです。これって利益のでないものに必死になるのはみっともないという冷笑主義的な感じもして、非常に邪悪な考え方ですよね。
例えば、今回の話はDIYはほとんどせずに、部員間の人間関係を修復する話でした。人付き合いが苦手な人たちが、頑張って人付き合いをしているのをみて「なんでコミュ障がわざわざ他人とコミュニケーションをとろうとしてるんだ」とは思わないはずです。むしろ、応援したくなる気持ちになるはずでしす。
なのに、3話を見るまでの私は、せるふに対して色眼鏡でみていたわけです。これは、私が先入観で凝り固まったつまらない人間ということもありますが、今後は作品全体のテーマにもつながる重要な話にも思えます。
「ものづくり」の楽しみと苦しみ
閑話休題。場面は変わって、DIY部の部室に連れてこられたジョブ子は、電動ドライバーの使い方を習います。せるふは見本を見せようとしますが、もちろんうまくいきません。逆にジョブ子は手慣れた手つきで工具を扱います。
工具に触ったことでジョブ子は、昔のことを思い出します。母親と家のガレージでDIYをしていたこと、工作がうまくいったら母親に褒めてもらえたこと。それらを思い出してジョブ子は泣き笑いのような複雑な表情を見せます。
そして、ジョブ子は正式に部長から部員として誘われて入部することになるのでした。
めでたし、めでたし。
感動ポイント②「ものづくりって苦しい」
私はここで二回目の号泣をしてしまいました。
ジョブ子は自分の経歴や今の自分の気持ちを説明しません。それでも、その気持ちは痛いぐらい伝わってきます。
彼女は最先端のものづくり技術を学ぶために日本にやってきました。だから、DIY部に自作スマホを持ってきたのです。それが彼女にとって最先端の工作だったから、それを見せてあげたかっただけで悪意はないのです。
そして、DIY部の活動を通して、彼女は自身のものづくりの原初にも立ち返ります。それは母親とガレージで行っていたDIYであり、工作がうまくいった時にもらえる母親の「グッジョブ!」なのです。
つまり、彼女にとってDIYとは自分がものづくりへの情熱を持つきっかけを作ったものであり、母親との楽しい思い出であり、ものづくりを勉強するために12歳で親元を離れて暮らすことになった苦しみの原因でもあるのです。
ジョブ子が抱えている喜びも苦しみもすべてがDIYに帰結する、その構造の美しさに私は涙を禁じえませんでした。
最後に、このアニメが末永く続くことを願って。
グッジョブ!!
👍👍