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雑文置き場

『青騎士』4号 新連載&読み切り感想

このご時世、気軽にコミティアなどのイベントに行くこともできないわけで、うんざりしちゃいますねえ。

でも、もしきみが幸運にも『青騎士』を読むことができたとすれば、その埋め合わせができるでしょう。

 



 

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本間保奈美「世界の終わりごっこ



 

姪の少女から学校に行きたくないと相談を受けた叔父は、「今日で世界が終わると思って過ごしてみる」ことを提案する。さて、少女はどのようにして世界が終わる日を過ごすのか。

ここで立ち上がってくるキャラクターは叔父だ。叔父は家の中で戦場の写真に囲まれて拳銃のメンテナンスをしているような人物で、片腕は義手になっている。つまり、「世界の終わりごっこ」ではなくて「世界の終わり」を体験し、なおかつそれを忘れられない人物なのだ。一方で、無邪気な少女はいつも通りの生活を繰り返す。でも、少女だって「世界の終わり」を知らないわけじゃない。これは、そんなお話。

 

器械「煉獄のドラコ」



 


肋から腹部にかけて肉が腐り落ちていた。肋骨には黒く変色した皮膚の残骸がこびりつき、その空洞を縁どる腰骨はゼラチンのように崩れかけている。洞の中に、ぼんやり輝いている背骨が見えた。

――パトリック・マグラア「天使」

 

強い絆で結ばれている姉妹、「ゆい」と「あみ」は、帰宅の途中で空から落ちてきた異形の化け物に襲われる。妹の「あみ」を守るために、「ゆい」は化け物と一緒に落ちてきた少女のような異形に決断を迫られる。

ページを開いてすぐに、器械先生は本気だと思った。ヌードデッサンのモデルをしている姉妹をみて。姉を守るために自己犠牲を選んだ妹をみて。妹を救うために堕天使と融合した姉をみて。器械先生は、本気だ、本気なんだ。

 

鈴ヶ森ちか「その想いは、ね…」



 

私の背中には急に翼が生えた。けど、空が飛べるわけじゃない。そのうえ、ずっと一緒だと思っていた女友達が転校することなった。その時、私は翼の本当の使い道を思いついた。

翼が生えてくるという身体的変化を通して、思春期の悩みや成長を描く作品には前例があるが、本作はその翼の活用方法に独創性がある。タイトルのダブルミーニングも鮮やか。

 

戸塚こだま「猿の手



 

怪談「猿の手」を使ったホラーコメディー。女の子はかわいいし、微グロもあるし、ブラックユーモアがさえている。漫画雑誌に載っていると少しほっとする。君は『青騎士』のあさりよしとおになってください。

 

Be-con「お姉さまと巨人」



 

「姉妹の契り」の制度を持つ女子学校の女学生がファンタジー異世界に転生してしまう。しかし、主人公は転生先で巨人の娘と出会い、二人はお互いの家族を探し出すために「姉妹の契り」を結び協力することになる。

異世界転生では、元世界の人間関係を振り切って自由になる作品の方がメジャーだと思うのだが(一種のリセット願望が反映されているように感じる)、本作では元世界で結んだ「姉妹の契り」が異世界でも重要なキーになっている。ありていに言えば、異世界に行っても元カノに執着している。それが独特で怖い。

 

鈴木りつ「全てが劣化する」



 


終った所から始めた旅に、終りはない。墓の中の誕生のことを語らねばならぬ。何故に人間はかく在らねばならぬのか?……。

――安部公房終りし道の標べに

 

中学生の時に出会った不思議なあの子、古墳のことをかわいいって言って、私を外に連れ出してくれる。でも、私の大好きなあの子はどんどん変わっていってしまう。だから、私は古墳に埋める。

表情の描き方が天才的。この漫画を読んでいると、自分の中の今まで知らなかった気持ちにでくわして驚かされる。死ぬまで――それも途方もない時間を感情は劣化していくだけなのか。

 

長谷川未来「9%の幸福」



 

主人公はマンションのベランダでパーテーション越しに隣人から声を掛けられ、以降は一緒に酒を飲むようになる。都会人の寂寥が胸に刺さる。